【ピリカ文庫】僕のバレンタイン大作戦
学生鞄から教科書を取り出し机の中へ入れようとすると、ガサガサとした紙袋が入っていることに気づいた。
これはマズイ!!
他のクラスメイトに知られたらやっかいだ。
今年こそ誰にも見つからずに、家まで持ち帰らないと。
今日はバレンタインデー。
僕は小学生の時からチョコを貰えたり貰えなかったりで、特別にモテるわけでもなければ、まったくモテないわけでもない中レベル。
いつもモテ過ぎるアイツは隠す必要がないくらい、大きな袋いっぱいのチョコを貰う。そして友達を連れて隠れた場所で袋を開け、興味のある女の子からの物だけをもう一度袋に戻し、残りはついてきた友達にあげる。大概、手紙なんかが一緒に入っていたりするので、その手紙は一応回収はするが、読まずに捨てるらしい。
奴は友達連中の前で、うんざりした顔をつくりながら大袈裟な程のため息を吐き出し 「ほんと毎年、参っちゃうよな」 なんて嘯く。奴のそんな姿を見ると、なんでも過ぎたらアカンな、なんて思う。
そう考えると自分くらいのモテ具合が一番、ワクワクできるのかも知れない。
そうそう、みんなに見つかったらやっかいだっていう話だった。
中1だった昨年、思ってもいなかった人気者の女子から昼休みに音楽室へと呼び出された。音楽室にはもう1人、おとなしく目立たない女の子もいた。結果、2人の女子からいっぺんにチョコをゲットしたのだ。僕はその可愛くて人気者の女の子から貰えた事で浮かれたまま、にやにやしながら教室へ向かった。
僕は念のため、学生鞄を持っていた。貰ったチョコは鞄の中にしまっておいた。それでバレないと思っていた。
次の授業は体育だった。もう殆んどのクラスメイトは体操着に着替え運動場に出ていた。
教室の前まで戻ると、廊下にひとり体のでかいクラスメイトが立っていた。僕が彼の横をすり抜けて教室に入ろうとすると、彼は僕の学ランの袖を掴んだ。
「おまえ何で鞄なんか持ってるんだよ! ちょっと中を見せてみろ」
「やだよ、なんでおまえに見せなきゃならんのじゃ」
内心では焦りながら、僕は抵抗した。
「うるせー、鞄をよこしやがれ」
次の瞬間、僕の鳩尾を目掛けて彼の岩のような大きな拳が飛んできた。
咄嗟に僕は腹筋に力を込めて、内蔵を抉られる事は阻止した。これでも反射神経には自信があるのだ。
だが、たった一発で僕の戦闘意欲は簡単に削がれてしまったのだった。そう体の大きくはない僕には、どうやっても太刀打ちできないと思わせる程の重いメガトンパンチだった。
彼は僕から鞄を奪い、中から2つの包装されたチョコを取り出した。
「誰から貰ったか知ってるぞ。おまえが弁当を食べる前にメモを渡されてたのを見てたからな。もう1つは誰からだ」
僕は黙っていた。彼がクラスで人気のあのコのことを好きなのは知っていた。彼はあのコからチョコを貰ったことを許せなかったのだろう。
誰がおまえのことなんか好きになるもんか。
そう思って僕は心の中で笑っていた。
でも、何故だか目には涙が滲んできた。
まだ致命的なダメージは受けてない。なのに戦意を喪失してしまった自分が情けなかった。おまけに涙なんか出てきやがった。
それで僕は急所をやられたフリをして、その場に蹲った。
これで涙も見られないし、喋れないフリもできる。一石二鳥じゃないか。そう思って、また悔しくて情けなくて余計に涙が出てきた。
「ちっ、チョコ貰ったからって調子に乗るんじゃねえぞ」
彼は2つのチョコを廊下の床に投げつけると、そう言い残して運動場に向かって歩き去った。
僕は廊下に転がったチョコを拾って鞄の中に戻すと、好きな体育のサッカーもやる気が無くなり、そのまま家へ帰ることにした。
昇降口へ向かう途中、担任の先生と会ってしまったが、腹を押さえながら歩く僕を見て 、
「なんだ、腹が痛いのか。帰るなら一応、俺に言ってからにしろよ」
とだけ言って見逃してくれた。
自分の部屋に着くと、クラスの可愛い人気のコから貰ったチョコの包みから開けた。名刺ほどの大きさのカードにメモ書き程度の文字が書かれていた。
そのカードには、もう1人の目立たないコの付き添いで一緒にチョコをくれたという内容が書かれていた。そのコのことを宜しくね とも綴られていた。中のチョコは割れていた。
もう1つの包装も開けてみた。チョコだけが入っていた。こちらは無事にハート型のチョコが並んでいた。僕はそれを全部、口に頬張り咀嚼した。キッチンに移動して、甘すぎる口の中へと水道の水を流し込み、溜め息をついた。
1ヶ月後のホワイトデー。
僕は買っておいたクッキーを持たずに学校へ向かった。
結局、2人には渡せず、自分で食べた。
ねっ、だからクラスの皆には見つかりたくないんだよ。
って、問題はそこだけじゃないって?
でもそれで気持ちが凹んだっていうのもあるじゃん。
そりゃ、目立たないコからだってバレンタインにチョコなんか貰ったら、気にはなるさ。
だけどこういうのって、タイミング逃すときっかけが無くなるってもんでしょ。
だからもう、切り替えましょ。
とにかくもう、過ぎた事は仕方ないということで。
もう次の戦いは始まっているのだから。
さて、今年は去年のような目には逢いたくない。
だからこそ、このチョコの輸送作戦を確実に成功させねばならない。
そう、完全秘密裏に。
この机の中の物、どうやって誰にも見つからず持って帰ろうか。
僕は授業中、ずっとその事だけを考えていた。
背後から感じる何者かの視線が気になり、掌には汗が滲む。
放課後、机の中から包装紙に包まれた物を、教科書で隠しながら鞄へと移す。
周りの様子を伺い、安全を確認するとゆっくりと教室を出る。
誰かが僕の名前を呼んだけど、気づかないフリをして前だけを向いて歩く。
廊下の突きあたりを曲がると、階段を駆け降り昇降口へと向かう。
また僕を呼ぶ声がした。
急いで靴に履き替え、僕は全速力で校門を抜けて走った。
〈おわり〉#ピリカ文庫
いいなと思ったら応援しよう!
ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀