#53【入試情報】共学化した芝国際の急伸
~わずか数年で人気校へ。その理由と流れを徹底分析~
① はじめに
ここ数年の首都圏中学受験を振り返ると、最も大きく姿を変えた学校の一つが芝国際中学校です。
以前は「東京女子学園」という校名でしたが、2023年度から男女共学となり、校名も「芝国際中学校・高等学校」へ変更されました。校舎も新しくなり、教育内容も大きく刷新されるなど、「新しい学校」と言ってよいほどの改革が行われています。
その結果、受験生や保護者からの注目度は年々高まり、説明会には多くの参加者が集まり、受験者数も大きく増加しました。数年前までは受験校の候補としてあまり名前が挙がらなかった学校が、今では「一度は説明会に行ってみたい学校」の一つになっています。
もちろん、新しい学校だから人気が出るわけではありません。
共学化した学校がすべて成功するわけでもありません。
では、芝国際はなぜここまで注目される学校になったのでしょうか。
その理由は、「共学化」という一つの出来事だけでは説明できません。学校名の変更、教育内容の改革、立地、時代の流れなど、さまざまな要素が重なった結果なのです。
② 東京女子学園とはどんな学校だったのか
芝国際の前身である東京女子学園は、1903(明治36)年に創立された伝統ある女子校です。100年以上にわたり女子教育を続け、多くの卒業生を送り出してきました。
学校が誕生した明治時代は、女性が高等教育を受ける機会はまだ限られていました。そのような時代に女子教育を掲げて創立されたことには、大きな意味があります。当時は「良妻賢母」という考え方が社会の中心でしたが、その中でも女性が学び、自立する力を育てることを目指した学校でした。
最寄り駅は田町駅。もちろん三田駅からも歩けますし、複数の最寄り駅を持つという利点がありました。偏差値としてはそこまで高くありませんでしたが、その分、多くの女子中学受験生の受け皿として機能している学校でした。

しかし、時代が変わるにつれて学校を取り巻く環境も大きく変化します。
特に2000年代以降は、中学受験をする家庭の価値観が少しずつ変わってきました。
かつては「女子校だから安心」「女子校だから伸びる」という理由で学校を選ぶ家庭も少なくありませんでした。しかし近年は、「男女が一緒に学ぶ環境を経験させたい」「将来の社会に近い環境で成長してほしい」と考える保護者も増え、共学人気が強まっていったのです。
首都圏全体を見ると共学校を第一志望とする受験生は年々増加しています。その流れの中で、伝統ある女子校も新しい時代に合わせた改革を求められるようになりました。
東京女子学園も例外ではありませんでした。
100年以上続いた伝統を守るだけではなく、「これから100年先も選ばれる学校になるには何が必要か」を考え、大きな決断を下したのです。
③ 共学化はなぜ行われたのか
芝国際への改革の中で最も大きな出来事が、男女共学への移行でした。
では、なぜ近年になって共学化する学校がこれほど増えているのでしょうか。
(1)少子化の中での生き残り
日本では子どもの数が年々減少しています。受験生の総数が減れば、学校はこれまで以上に多くの家庭から選ばれなければなりません。
東京都の年少人口も減り始めていますが、都内の中学受験生はあと数年は減少しないと言われています。しかし、埼玉・千葉・神奈川では子どもの数の減少は明らかなのです。
さらに、保護者の価値観も変化しています。
現在の社会では、大学や企業のほとんどが男女共学・男女混合です。そのため、「中学校から自然な男女関係の中で学んでほしい」と考える家庭が増えています。
(2)多様な教育内容を求めて
もう一つ大きな理由が、教育内容の変化です。
最近人気を集めている学校を見ると、「探究学習」「STEAM教育」「英語教育」「国際教育」などを積極的に取り入れる学校が増えています。これらの教育は、男女が協力しながら課題を解決する授業とも相性がよく、共学校というスタイルとも結び付きやすいのです。
海外で行われている先進教育をそのまま取り入れたり、海外大学をも視野に入れたような学習をしていく場合、海外に多い共学スタイルのほうが、そのまま教育内容を取り入れられるという利点もあります。
さらに芝国際が位置する港区周辺では、再開発が急速に進んでいます。
品川駅周辺ではリニア中央新幹線の開業を見据えた大規模再開発が進み、高輪ゲートウェイ駅周辺でも新しい街づくりが行われています。こうした変化の中で、地域全体が「国際都市」としての性格を強めています。
学校もまた、その街とともに変化していると言えるでしょう。
④ 「芝国際」という名前に込められた意味
校名が「東京女子学園」から「芝国際」へ変わったことも、学校改革を象徴する出来事でした。
「芝」という名前は、学校がある港区芝エリアに由来しています。
芝公園、東京タワー、増上寺など、東京を代表する名所が集まる地域であり、ビジネス街や大使館も多く、外国人が行き交う国際色豊かな街でもあります。
そして「国際」という言葉には、単に英語を学ぶ学校という意味だけではありません。
世界中の人々と協力しながら課題を解決する力、多様な文化や価値観を理解する力、そして世界へ羽ばたく力を育てたいという学校の思いが込められています。
渋谷教育学園渋谷を皮切りに、国際系を掲げた共学校が学校改革に成功し、生徒をたくさん集めているという特徴があります。広尾学園、広尾学園小石川、開智日本橋。その流れに芝国際が載ろうとしているのは明白でしょう。
⑤具体の学校改革
2022年、東京女子学園から共学化するために、開校準備室が設けられた。室長は学園長に就いた小野正人理事が、副室長は校長に就いた山崎達雄氏がそれぞれ担っていました。
しかし、この二人は、リニューアル開校2年目の2024年春にいずれも退任することになりました。小野氏は24年開校の開智所沢中等教育学校に校長代理として着任、山崎氏はさとえ学園小学校(栄東中などと同じ学校法人佐藤栄学園の学校)の教頭になったようです。
学校改革において、ある程度の反発を伴う新陳代謝が起こったのは確かなようです。東京女子学園時代の多くの教員が退職し、職員の入れ替えが起こりました。
結果として、高校生がまだ残る東京女子学園の顧問だった吉野明氏が、2024年から芝国際の校長に就任しました。吉野氏は鷗友学園女子の校長を長らく務め、同校の名誉校長でもあります。
さらに、2026年春には広尾学園小石川の校長だった松尾廣茂氏が校長に就任しました。
人事だけ見ても、近年の学校改革に成功した国際系あるいは難関校のそうそうたる教育者を招聘していることが分かります。学校改革への、学校側の本気度が分かります。
学校改革の中で、目に見えて変わったのが校舎と教育内容です。
芝国際は校舎を建て替え、最新の教育に対応した学習環境を整えました。地上12階建ての新校舎では、7〜10階テナントエリアに、ローラスインターナショナルスクールオブサイエンスがキャンパス移転しました。1つの校舎に、芝国際という日本の学校と、インターナショナルスクールが同居することで、文化交流が期待できるといいます。「学びのアミューズメントパーク」「小さな地球」などの合言葉が生まれました。
グラウンドはなく、屋上にテニスコートなどが置かれました。思い切ったビル型の設計、都心ならではのビルの中のキャンパスです。

さらに特徴的なのが、STEAM教育や探究学習を積極的に取り入れていることです。
STEAM教育とは、
Science(科学)Technology(技術)Engineering(工学)Arts(芸術・教養)Mathematics(数学)
の頭文字を組み合わせた教育方法です。
これは、単に知識を覚えるだけではなく、「知識を使う力」を育てようという考え方です。
芝国際がこうした教育を重視するのは、社会の変化に合わせて「正解を覚える力」だけではなく、「答えを見つける力」を育てたいという考えがあるからでしょう。
また、英語教育にも力を入れています。
「国際」という校名の通り、海外との交流や英語を使う機会を多く設け、将来的に海外大学への進学や国際社会で活躍できる人材の育成も視野に入れています。
⑥ 入試制度を分析する
教育内容だけではありません。
芝国際の入試制度を見ても、「できるだけ多くの受験生に挑戦してもらいたい」という学校の考えが伝わってきます。

芝国際は、2科・4科だけではなく英語利用など、さまざまな入試方式を設けています。
これは、「受験生を増やしたい」というだけではありません。さまざまなタイプの受験生に門戸を開こうとしているのです。
また、複数回受験できることには受験生側にも大きなメリットがあります。
一度目の受験で学校の雰囲気を知り、二度目で力を発揮できる子も少なくありません。学校側も、「本当にこの学校へ通いたい」という熱意を評価したいと考えているのでしょう。
⑦ 芝国際初年度の大混乱と対策
共学化した2023年、定員120人に対しのべ出願者4681名と殺到しました。前年の東京女子学園としての最後の入試は、受験者70名程度、入学者は16名ことを考えると驚異的な増え方です。
ただし、受験生の殺到は予想ができたことでした。
2022年12月1日深夜0時、ウェブ上で受け付けを開始した1月開催の学校説明会の定員900人は、58秒で満員となったそうです。事前から、受験生と保護者に注目された新校だったのです。
新設校への期待と、複数回受験可能な入試システムが重なり、募集定員に対して数十倍の出願者が集まったことになります。
受験生や保護者への連絡遅延、合格発表サイトのシステムトラブルなど、中学受験市場で大きな話題となりました。受験倍率は回次によって10倍以上に跳ね上がりました。
・合格発表の遅れ
2月1日入試の合格発表は、当初23時に予定されていましたが、実際に発表されたのは24時45分ごろのことでした。日付を超えてしまったため、翌日の学校の出願に差し障った受験生も多かったことでしょう。
私たち塾職員も合否対応に追われ、(芝国際のせいだけではありませんが)余裕で日付を超えることになりました。
2月1日の合格発表について、要項記載の時刻に発表できず、大幅に遅れたことをお詫びします。
連日かつ午前・午後と受験の続く小6生並びに保護者の皆様、またその結果連絡を待つ塾や教育関係の皆様にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした。
合格発表と同時に、受験者数のデータと2月1日午前入試の試験問題・模範解答・解説をアップしたかったのですが、叶いませんでした。
本日は23時発表を最優先に試験運営・判定を行っています。
受験者数等のデータについては公開する準備ができ次第、公開させていただきます。
・合格者数の絞り込みによって高倍率が発生
事前の説明会では「できるだけ多くの合格者を出す」との発言がありました
。しかし、実際には合格者数が少なく、特に「Ⅱ類(特進クラス)」では2月1日午後の倍率が約36倍に達しました。事前の帰国入試で想定より多くの合格者を出してしまった、あるいは早めの日程で想定より多くの合格者を出してしまったことで、後半の日程での合格者数を絞り込まざるを得なかったとされています。
・出題ミスとその影響
2月2日午後の算数の試験で、大問3の(2)と(3)に出題ミスがあり、全員正解とする対応が取られました。テストのうちかなりの割合が全員正解となったことで合否ラインが不透明になり、正しく学力が判定されたか疑わしいという声も上がりました。初年度の入試問題は出題傾向が定まりづらく、学校によっては作問を外注したり、作った問題を外部企業に精査してもらうこともあります。芝国際がどうだったのか分かりませんが、そういった作問段階が未熟だったのかもしれません。
・受験生の横で合格証書配布
2月2日の入試当日、これから受験する生徒の列の横で、前日に合格した生徒への合格証書の授与が行われました。前日に不合格となり再受験する生徒も少なくなかったので精神的ダメージを与えてしまう結果となり、SNS上で批判されました。
受験に関して考えうるミスがすべて出た、と酷評される出だしとなった芝国際ですが、逆に言えば高い期待と集まりすぎた受験生、といううれしい悲鳴でもあったわけです。
2026年現在、倍率も落ち着き、四谷大塚偏差値50前後の学校として立場が固定化されたため、倍率は落ち着いています。

⑧ なぜ芝国際は人気が出たのか
・共学化
男子受験生も受験できるようになったことで、単純に受験対象となる人数が大きく増えました。共学校ブームもあり、受験者を増やす大きな要因となりました。
・新校舎
設備の充実は、保護者に安心感を与える要素の一つです。また、都内で子どもの増えている湾岸エリアは、豊洲や晴海など新しい建物が当然のように立ち並んでいます。きれいさは生徒にとっても大切な尺度です。
・港区という立地
都心にありながら交通の便が良く、多方面から通学しやすいことは大きな魅力です。近隣には、競合するような国際系共学もほとんどありません。しいていえば開智日本橋でしょうか。
・国際教育や探究学習
「これからの時代に必要な教育」を前面に打ち出したことは、従来型の進学校との差別化にも成功しています。国際型入試や帰国子女の受け入れ、英検による加点など、宣言通り実行されていることも信頼を生みました。
・学校改革への期待
受験生や保護者は、「これから伸びる学校」を探しています。
完成された学校も魅力ですが、自分の子どもと一緒に成長していく学校にも大きな魅力があります。同じ山手線の内側だと、大妻や頌栄女子がやや苦戦ぎみなのは、伝統女子校のイメージを覆せない部分もあるのでしょう。
⑨ 芝国際は今後どこまで伸びるのか
では、芝国際は今後どのような学校になっていくのでしょうか。
私自身は、まだ「完成された学校」ではないと考えています。
学校改革は校名を変えたり、新校舎を建てたりすれば終わるものではありません。本当に評価されるのは、これから卒業生がどのような大学へ進学し、どのような人材として社会へ羽ばたいていくかです。
その意味では、芝国際はまだスタートラインに立ったばかりです。
2023年に入学した中学1年生が受験・卒業するのは2028年です。学校の成果が試されるのはそのときでしょう。
一方で、学校改革のスピードや方向性を見ると、「本気で難関校を目指そう」という姿勢は十分に感じられます。
校名変更、共学化、新校舎建設、教育内容の刷新、著名な教育者の招聘など、短期間でここまで大きな改革を行った学校は決して多くありません。
ただ、四谷大塚などを基準にした模試偏差値は、いったん今の数字、つまり50強~60弱でとどまるとみています。
広尾学園や開智日本橋のブランドと戦うにはまだ歴史が浅く、実績が乏しいからです。今後は、立地と新校舎を活かしてどのくらい実績を上げ、受験生を集められるかにかかっているでしょう。
改革には痛みも伴います。
伝統校であるからこそ、「昔の学校の方が良かった」という声もあれば、新しい学校づくりに戸惑った教職員もいたことでしょう。それでも改革を止めず、新しい学校像を作ろうとしている点は高く評価できると思います。
⑩ まとめ
芝国際の人気急上昇は、決して偶然ではありません。
共学化や新校舎など、計画的に練られた作戦です。それぞれが現在の中学受験生や保護者のニーズと合致した結果、多くの受験生を集める学校へと変貌を遂げました。
今後数年間で大学合格実績が伸びれば、現在の偏差値にとどまらず、さらに上位校の仲間入りを果たす可能性も十分あるでしょう。
一方で、学校改革は教育内容を磨き続け、生徒や保護者から選ばれ続ける努力が求められます。
芝国際が「改革した学校」として語られるのか、それとも「改革に成功した学校」として定着するのか。
その答えは、これからの数年間で明らかになっていくはずです。
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