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推しができた。その名前は辰巳ゆうとさんと言う。

推しができた。その名前は辰巳ゆうとさんと言う。

出会いと再会

初めて彼のことを認識したのは2018年の第60回日本レコード大賞の報道を見た時。動画でその時の様子を見たぼくは、最優秀新人賞を獲得し、涙ながらにデビュー曲「下町純情」を歌う辰巳さんの少年のようなあどけなさと大人としての決意が入り混じる姿に、すっかり心を打たれてしまったのだった。
もともとNHKをよく見る家だったこともあり、小さい時から演歌の番組だったり、のど自慢だったりを好んでいたこともあり、演歌や歌謡曲はけっこう好きだった。

だが、それからしばらくは、最近どんな曲出してるのかな、と調べる程度で、そんなに推し活ってほどではなかった。

転機はといえば、もうあまり覚えてないけど、Apple Musicを契約して、いろいろな曲が聴き放題になったことだと思う。ふと思い出して辰巳さんの最近の曲を聞いてみたら、昔よりずいぶん歌謡曲チックな曲が多くなっていた。中でも「迷宮のマリア」なんかはそういう昭和歌謡って感じでもあり、でもYouTubeなどで動画を見ると、合いの手が工夫されていて、夜の街っぽいコーレス(コールアンドレスポンスのこと)で、すっかり心を惹かれてしまった。
以来、インターネットで見られる範囲のものはチェックし、サブスクでデジタルファンクラブに入り、動向をチェックするようになった。というのが経緯。

ライブへ

で、仕事の関係で都内に来ることがあり、ちょうど10月13日(月祝)がぽっかり予定が空いていることに気づいた私は、辰巳さんの予定をチェック。なんと茨城県守谷市でインストアライブがあるという。茨城というと遠いイメージもあるが、滞在先から電車で一本で、何よりぼくには守谷に土地勘が少々あった。もうこれは行くしかないのでは、と思い、思い立っていくことにしたのだった。

もちろんハードルは高い。
まず、私は30代男性だ(他の投稿を見るとわかるだろうが、しかもゲイだ)。辰巳さんのファン層について、そもそも若手男性演歌歌手である時点で、妙齢の女性たちが主要な層であることは想像に難くない。
そして、ファンのコミュニティが強そうだ。「ゆうサポ」という名前が最近ついたのだが、コーレスも多く、それを揃えて覚えている人たちなので、結束がかたい印象があった。実際、Xを通じてファンの投稿をフォローしていたのだが、全国どこにでも辰巳さんを見にいくその姿勢が、まさに「推し活」そのもので、ちょっとビビっていた。
ただその一方で、希望もあった。柏レイソルとのつながりである。最近辰巳さんは、柏レイソルの垣田裕暉さんのチャント(サポーターが試合中にチームや選手を応援するために歌う応援歌やコールのこと)で曲が採用されたことをきっかけに、つい先日も柏レイソルの主戦場である日立台スタジアムでスペシャルライブをしたばかりだった(この様子がまた涙なしでは見られない)。
守谷は比較的柏に近く、Xのレイソルのアカウントでも守谷でのイベントの宣伝投稿をしていたので、多くのレイソルサポーターが来ることが想定できた。であれば、男性も多く来るだろうし、いろいろなファンたちが混じり合ういい感じの空間になっているのではないか。そうであれば、ぼくもその中にいることができるのではないか、と思った。

開演前

今日のインストアライブは2部構成で、13時と15時の2回あった。イオンタウン守谷の、吹き抜けになっているセントラルコートというところが舞台。いわゆる普通のイオンのイベントスペースである。そこに仕切りが区切られており、80席ほど椅子が並べられているので着席することもできるし、2階から吹き抜け越しに眺めることもできる。着席するのはまず整理券を持っている人が優先で、整理券を入手するには10時開店と同時に開かれる受付で、10月15日にリリースされる「運命の夏」の新しいバージョンのCD3枚を購入する必要がある(しめて4,500円)。そしてその整理券を入手した人は、終了後に辰巳さんのサインをもらうか、ツーショット写真を撮ることができる、というものだ。

10時開店の少し前に行くと、すでに30人ほどが入口の前で長蛇の列をなしていた。やはり予想していたととおり女性率が非常に高い。レイソルの象徴である黄色いユニフォームを着ている人もいれば、公式で発売しているグッズを片手にしている人もいた。ちょっと並ぶのにはびびって、イオンの周りを歩いて時間をつぶす。
開店と同時に列が動き出す。そういえばお財布に2000円しか入っていなかったので、ATMによってから、受付に並ぶ。セントラルコートの脇に机がおかれ、2人のスタッフによって受付がなされていく。1人は希望を聞く人で、もう一人はお金を収受して整理券を渡したり、CDが発売前のため発送の手続きを指示する人。対して、並んでいるのはぼくの前にすでに50人以上いる。蛇腹状に並ぶように指示され、おとなしく待つ。
並んでいる人たちの様子を見ていると、だいたい半分くらいはもともと知り合いなのかな?という雰囲気。
お久しぶりー、こないだの大阪のイベントはどうだった、仕事の休みとライブがなかなか合わなくて、友達の分も整理券を取るからもう一回並ばなくちゃ、お昼はフードコートの牛角で一緒に食べる? などの話題が聞こえてくる。
45分ほどそのまま待って、ぼくも整理券をもらうことができた(13時の回、58番)。そのままCDを購入し、発送の手続きをする。言われるがままに手続きをしたので、発送先を職場にしてしまう(わりかし自由な職場なので)。うまく届くかしらとあとで不安になる。
11時前に、自由時間になる。しばし待機。スターバックスに入って少し作業をしたり、フードコートでご飯を食べて時間をつぶす。

開演の30分前くらいに集まってください、と言われていたので、12時20分くらいにセントラルコートに戻ると、すでに整理券が呼ばれ始めていた。運営の方々がいろいろ指示をみんなに出しているようなのだが、吹き抜けということもあり、マイクが響いていてあまり聞こえづらい。よく聞くと、どうも先に早い番号の人から会場に入れようとしているようだ。しかし、14番の方まで入れたところで、15番の方がなかなか見つからない。「12時30分までに戻って来なかったら飛ばしちゃいますよ」と何度も聞こえる。ファン同士でも「15番の人〜」と探し合っている。12時30分になり、15〜17番の人が飛ばされ、18番から呼ばれ始める。途中で、15〜17番の人も現れて無事入れていた。

ぼくはだいたい会場の真ん中くらいに席を取ることができた。3つつながっている席の端に座っていたところ、もう片方の端に座っていたおばさまに話しかけられる。「若い男性でも辰巳さんをお聞きになるのね、いったい辰巳さんの何が良いのかしら」と直球な質問。ぼくはすこしつまりながら「歌が上手いところですかね」と無難な返しをする。「あらそう、若い人にも聞いてもらえるのはすばらしいわね」と返され、そこからはおばさまのご自身の話をお聞きする。ここに車で運転していらっしゃったということ、昨日も別の演歌歌手が歌っていたのを見たこと、孫のこと、台風のことなど、まるで親戚のように話を続ける。思い出したように「そういえば若い人たちは、高市さんのことをどう思っているのかしら?」と聞かれ「え、えーと、そうですね、まあなったからには頑張ってもらったほうがいいんじゃないですかね」などと返すと、ステージが明るくなる。

本番

司会のあと、辰巳さんが登場する。真っ白な肌、レイソルのユニフォームの黄色が映えて、とんでもなく神々しく見える。ぼくが直接辰巳さんを目視したのは今回が最初であった。こ、これが本物か、と、しばし固まりながら呆然と辰巳さんのことを眺めている。

「心機一転」。ゆうサポのみなさんのコーレスが本当に一体感があり、レイソルサポーターの人たちやその他一般の人たちが、それにびっくりして笑い声を上げている。とにかく、生で動き歌う辰巳さんから目が離せない。さっきおじさんが使っていたマイクと同じとは思えない(違うのかな?)、とても声がよく伸び、美しく響いている。歌いきり、MC。辰巳さん、自己紹介と柏との縁についてなどを話す。一言一言はもうまったくおぼえていない。
「星屑セレナーデ」「誘われてエデン」の2曲がそれに続いたが、どちらもぼくは毎日のようにヘビロテしている曲なので、生で聴けた喜びから涙ぐんでしまう。
「迷宮のマリア」は、レイソルサポーター(2階に陣取っていた)とともに、垣田選手のチャントバージョンを織り交ぜて。大声で一体感のある演奏になる。
最後に「運命の夏」を歌い切って締め。本当にあっという間の25分だった。

サインを希望した人が列をなして、そのあとツーショットを撮る列をつくった。ぼくはツーショットをお願いしたのだが、今まで目の前で歌っていた人、しかもあの辰巳さんが隣にくるということがまったく想像がつかなくて、緊張がピークになる。次々と順番が来て、荷物をあずけ、自分のスマホで撮影してもらうためスマホをスタッフさんにあずけ、辰巳さんの横へ。にこにこと「今日はありがとうございます」と言ってくれる辰巳さんに、しゃべることは考えていたのに、ただただうなずくだけで何も言えないぼく。「運命の夏」のポーズを辰巳さんがしてくるので、そのポーズをぼくもして、写真を一枚。「ありがとうございました」と辰巳さんに送り出される。

その後

セントラルコートを離れ、そこはかとない後悔の念が浮かんでくる。ああ、本当は「レコ大の時から推しが始まったこと」とか、「今日は地方から来ていること」、「その地方でコンサートが予定されていて、チケットをとっていること」くらいは話したい、と思っていたのに、と。

2階からセントラルコートを眺め、15時の回の整理券も取ることにしよう、次はもっと上手く話せるようになろう、次は何を歌ってくれるのかな、と考える。

そして、ふと振り返ると、ゆうサポさんにもいろいろいるんだなということもわかった。サイリウムを振っている人もいれば、手拍子だけをして見つめている人もいる。
さらに、レイソルファンの人たちも、にこにことしながら、みんな楽しそうにライブに関わっていた。

みんながみんな、ひとつになっているわけではない。
ただ、辰巳さんを推している、ということは同じだけど、それぞれの推し方が共存しながら、一緒にライブの時間をつくっているのだ。
それなら、ぼくも、ここにいてもいいかもしれない。と思った。

まさにここから、ぼくにとっての推し活が、はじまった。

15時の回のラストシーン。まさかのスタンディング。こちらも最高でした。

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