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祖母の遺品


奄美大島出身の祖父母の話。
同居していた母方の祖父母から私は散々可愛がられまして。祖父母には娘(私の母)しかいなかったから、私は待望の男の子でしかも初孫。“ヤスシ”の名付け親・ゴッドファーザーはおじいちゃんです。私が生まれたとき、たくさんの親戚を呼びつけてパーティをしたそうで。

仲の良い祖父母でねぇ。いつも二人で居ました。夜遅くまで笑いながら話してたりね。付き合いたての恋人同士かっ!ってツッコミたくなるくらいよ。

そんな二人の昔話。
祖父が仕事で出張から帰ってきて、祖母がカバンを片付けてたんです。そしたらカバンの奥底に隠されていた手紙が出てきました。なんと、知らない女性からのラブレター。祖父はめちゃくちゃモテましたからね。

それを見た祖母は怒り狂って、台所に無言で行き、包丁を手に取ります。それを祖父の胸に突きつけ、「あんたを刺して、わたしも死ぬわ」と。まぁ、なんとか宥めたらしいんだけど、祖父は私に言いました。「わしは2回死んでるねん。1回目は戦争。2回目はおばあちゃんに刺されそうになったときやな」
チャーミングな二人です。

ラブラブな二人だったから、おじいちゃんが亡くなったときは大変でした。葬式でね、出棺するときあるじゃない。あの時さ、おばあちゃんが棺にしがみついてワンワン泣き叫ぶのよ。

「行かんといてぇぇぇ。わたしを置いて行かんといてぇぇぇ。お願いやからわたしも連れていってぇ……」

もう、家族も親戚も参列者も、それを見て号泣ですよ。それまで私は涙を我慢してたけど、そこで崩壊しました。今思い出しても泣けますわ。

おじいちゃんが亡くなってからすぐ、おばあちゃんは認知症になってしまったんです。

あれはたぶん何かも忘れたかったんだと思う。おじいちゃんが亡くなったことを忘れたいから、全部忘れてしまったんだと思うな。脳はそこまで器用に出来てないね。

あんなに可愛がってくれたのに、ついには孫である私のことも忘れてしまったんです。それが悲しくて悲しくて。

だからね、私は祖父母の出身、奄美大島の伝統の奄美三味線を練習しました。沖縄の三線みたいなやつね。

それを私が弾きました。おばあちゃんは私が誰かわかっていません。流しの三味線弾きだと思ってたのかしら。「あんた、三味線うまいなぁ」なんて言いながら、奄美の島唄を歌い出すんです。で、歌い終わり、私の方をじっと見て言いました。

「なんや、“ヤスシ”、いつのまに三味線できるようなったんや」

久々に名前を呼ばれた私は、流れそうになる涙を堪えて答えます。

「練習したんやで、おばあちゃん。もう一曲いこかー」

………

そんな祖母も鬼籍に入りまして。
母とね、実家の遺品整理をしていたんです。おばあちゃんの思い出の服やら持ち物やらを見ながら、母とやんややんや言いながら片付けていました。

そしたら母が急に声を詰まらせたんです。

「ん?どうしたん?」と私が声をかけると、母は泣いていました。なになに。まぁ、悲しいのはわかるけど。

「これ、見て」

母から渡されたのは、おばあちゃんが死ぬまでいつも使っていた財布でした。

中を開けるとそこに一枚の白黒写真が入っていたのです。

若いおじいちゃんとおばあちゃん写っている、2ショット写真でした。

あぁ、おばあちゃん。全部忘れても、最後までおじいちゃんのことは忘れてなかってんなぁ。

写真の二人は、私が毎晩見ていた、楽しそうに話すおじいちゃんとおばあちゃんの笑顔そのまんまでした。


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[画像協力:さちわ]

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