絶好調の自分を信用しすぎない。《今週の三題噺発表》
怪談話には、「夜に聞くから怖い」という反則技がある。
真っ昼間のファミレスで聞いたら、「は?そんなことある?」で終わる話でも、夜になって部屋の電気を消した途端、さっきまで鼻で笑っていたはずの押し入れが背景として仕事を始める。
人はその時のコンディションで世界の見え方まで変わってしまう生き物らしい。
というわけで、絶好調の自分をあまり信用しないようにしている。いや、信用しないというと語弊がある。自分は好きだし、頼もしい。でも、あいつは勢いで約束をしてくる。
「毎日2本書こう」
「メンバーシップも始めよう」
「毎週ライブ配信もやろう」
絶好調の私は未来の私を部下だと思っている。しかもとんでもなく優秀な部下だ。
「お前ならできるよな?」
と気軽に仕事を増やして帰っていく。残されるのは普通の日の私である。
朝起きても何も浮かばない日。
文章を書いても全部65点に見える日。
アイスコーヒーを飲みながらパソコンより窓の外を見ている時間のほうが長い日。
そんな日に、「はい!1日2本ね!」なんて昨日の自分からメモが届いている。
知らんがな。昨日のお前が書け。
でも今日の私は書けない。昨日の私はもう帰宅している。
なので絶好調の自分が立てた予定に追いかけ回される。
4月始まりの手帳を買ったことがある。「4月から人生を変えよう」と思ったのだ。新しい手帳には未来の自分が輝いていた。毎日きれいな字で予定を書き込み、読書記録をつけ、アイデアを書き留め、運動までしている。
ところが5月には買い物メモしか書いていなかった。
6月は、「歯医者14時」
7月は、白紙。
未来の私はいつも途中で失踪する。
手帳が悪いわけではない。未来の私を過大評価しすぎているだけなのだ。
逆に考えるようになった。
「最悪なコンディションの日でも続けられるかな」
これを先に考える。
何も書きたくない日。
風邪気味の日。
仕事でくたくたに疲れた日。
夏の暑さに脳みそが溶けて日傘を差しているのに「暑い」としか感想が出てこない日。
そんな日でも、「これくらいならできる」と思えることだけ始める。
不思議なもので、そのくらいのほうが長続きする。
創作は気合いで始めるものじゃないのかもしれない。歯磨きみたいなものだ。「今日は気分がいいから3時間磨こう」とはならない。
毎日少しだけやる。
その少しが積もる。
絶好調の日もある。信じられないくらい言葉が出てきて、「今日は天才かもしれない」と思う日だってある。
でもそんな日に新しい約束だけはしない。
絶好調の私はたぶん信用できない。
あいつは怪談話を聞いた夜くらい判断力がおかしい。世界中のドアを開けても平気だと思っている。
翌朝になれば、「昨日なんであんなこと言ったんだろう」と首をかしげるのは、だいたい普通の日の私なのだから。
続けるコツは勢いではなく保険なのだと思う。絶好調の日に始めるんじゃない。絶不調の日でも終わらない形を先に作っておく。
それならスランプが来ても「ああ、今日はこういう日ね」と言いながら歩ける。
歩幅は小さくてもいい。明日も机に向かえる人が一番強い。
《前回の三題噺》
1.怪談話
2.4月始まりの手帳
3.日傘
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.高校野球
2.アメリカ横断
3.鳥人間
ハッシュタグ
#木曜日は3ースデイ
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締め切りは一応来週8月12日(水)まで。
過ぎても大丈夫です。
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