読者に好かれたいなら、まず親に見せにくい文章を書け《今週の三題噺発表》
文章を書いているとき、私はちょこちょこ思うんです。ああ、この文章、いい人すぎるな、って。
ちゃんとしている。礼儀正しい。角がない。親戚の集まりで誰からも嫌われない代わりに、誰の記憶にも残らない人間の文章になってる。
挨拶は完璧なのに帰り道で会話の内容をまったく思い出せない。そういう文章。
読者にモテたいのなら、これでは足りないのよ。モテる文章は、必ずどこかが危ういから。
転びそうで、火がつきそうで、少しだけ親に見せたくない。そういう不安定さが、文章に体温を与える。
安定した文章は、読まれても記憶に残らない。でも危うい文章は読み終わったあとも頭に残る。引っかかる。気になる。その引っかかりが、モテる文章の条件です。
たとえば短歌。
短歌は57577という安全柵に囲まれているようで、実は中身が無法地帯なのよ。冷蔵庫の音がうるさい夜の孤独も、コンビニの蛍光灯に照らされた失恋も、全部ぶち込める。しかもたった31音で。
短歌が人を惹きつけるのは、上品だからではなくてむしろ逆だと思う。こんなこと、言葉にしていいのか、っていうラインを毎回またいでくるから。形式は整っているのに、中身は暴れている。その矛盾が、短歌を魅力的にしているのね。
文章だって同じだ。
モテない文章は、ラインを確認してからジャンプする。助走をつけて、踏切線を見て、安全を確かめてから跳ぶ。
だから跳べない。確認している間に、勢いが消えちゃう。
モテる文章は、走りながら気づいたら越えている。ラインの存在すら意識していない。気づいたときには、もう向こう側にいる。その無自覚さが文章を生き生きとさせる。
コロッケを思い出してみて。
出来立てのコロッケは危険よね。熱い。油が飛ぶ。紙袋の底がじわじわ染みてくる。それでも人は待ちきれずにかじっちゃう。だって完全に安全なコロッケは、もう冷めているからね。
文章も同じ温度帯に置くべきじゃない?火傷するかもしれないけど、今しか出せない熱で書く。
後から冷静になって「言い過ぎたかな」と思うくらいでちょうどいいのよ。モテる文章は、だいたい後悔とセットで完成する。公開ボタンを押す直前に「おいおいこれ、大丈夫かな」って思う。その不安が文章の熱を証明している。
夜の書店、開いているのはTSUTAYAだね。そこを思い浮かべてみる。
閉店間際の書店には、人生の危うい瞬間を探しに来た人たちがいる。タイトルだけで手に取った本。表紙に惹かれた文庫。誰かに「え、それ買ったんだ」と言われたら、少しだけ説明に困る本ほど、あとで忘れられない。
文章もそうでありたい。読者が「なんでこれ読んじゃったんだろう」と思いながら、次の日も頭の片隅に残っている文章。
安全運転で目的地に着くより、少し迷子になった夜の方が話になる。ネタになる。予定通りに進んだ一日は、まぁ日記に書くことがない。
でも予定外のことが起きた日は誰かに話したくなる。文章だってそう。予定調和で終わる文章より、予定外の展開がある文章のほうが記憶に残る。
危うい書き手になる、というのは、無責任になることではなくて。
自分の癖、歪み、変なこだわりを自覚した上で、それを出す覚悟を持つことです。癖を隠そうとすると、文章は無個性になる。でも癖を出すと文章は個性になるから。その個性が、読者を惹きつける。
短歌的に言えば、整えすぎない勇気。コロッケ的に言えば、揚げたてで出す胆力。TSUTAYA的に言えば、誰にどう見られるかより、自分が何を手に取ったかを信じる姿勢。
その覚悟が、文章を危うくする。そして、危うい文章ほど読者の心に刺さるのよ。
読者は、完成度の高い文章よりも、生き物っぽい文章に惹かれる。
少し息が荒くて、言い直しがあって、たまに噛む。それでも目を逸らさずにこちらを見ている文章ね。
完璧な文章はマネキンに似ている。美しいけど生きていない。でも不完全な文章は人間に似ている。欠点があるけど生きている。
生きているものは危うい。いつ転ぶかわからない。いつ怒り出すかわからない。でもその不安定さが魅力になる。
いつ脱線するかわからない文章のほうが、読者は目を離せない。
モテたいなら正しく書かない。安全に書くな。好かれようとするな。
危ういまま立つ。バランスを崩したまま書く。転びそうになったまま進む。その不安定さが文章を人間にするから。
文章は安定した人間より、今ちょっとバランスを崩している人間の方に寄ってくる。
読者だってだいたいそういう夜に文章を読んでいるのだから。安定した日には文章なんて読まない。何かが揺らいでいる夜に人は文章を開く。だから揺らいでいる文章のほうが届く。
危うい文章を書くのは自分の不安定さを認めることだ。完璧じゃないことを隠さないこと。その正直さが読者との距離を縮める。
危ういまま書く。後悔するかもしれないけど書く。誰かに怒られるかもしれないけど書く。その覚悟が、文章をモテさせる。
《前回の三題噺》
1.短歌
2.コロッケ
3.TSUTAYA
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.コンクリート
2.ファミチキ
3.海外旅行
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[画像協力:さちわ]
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