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読みやすさという毛布、刺さりという画鋲《今週の三題噺発表》

 
刺さる文章と、読みやすい文章。

この2つって対立しているようで、実は親戚なんです。法事で久しぶりに会うくらいの距離感で、微妙に似ている。顔のパーツが。声のトーンが。でも価値観が少しだけズレている。片方は都会に住んでいて、片方は地方に残っていて、でも正月に集まると「あ、やっぱり血は争えないな」と思わせる。そういう関係。

読みやすい文章は、ぬいぐるみです。

柔らかく、安心で、抱きしめられる。段落はふかふか。語尾は丸い。読者は警戒せず、ページをめくります。「やさしいねえ」なんて頬ずりする。洗濯機で洗えるタイプのやつ。子どもが抱いて寝ても安全。角がない。目玉も取れない。CEマーク付き。完璧です。

だけど刺さる文章は違います。

そのぬいぐるみの中に、細い針金が一本、通っているのよ。抱きしめた瞬間、あれ、なんか痛い。でも離せない。痛いんだけど、なんか気になる。もう一回抱きしめてみる。やっぱり痛い。でも手放せない。

この針金が「刺さり」です。製品としては不良品なんですけど、記憶には残る。

読みやすさだけを追い求めると、文章は祝日の翌日みたいなんです。

なんとなく静かで、なんとなく気怠い。人はいるけど活気がない。優しいけれど記憶に残らない。みんな疲れているから喋らない。でも敵意もない。ただ、そこにいる。

祝日の翌日の空気は悪くはないのよ。むしろ穏やか。けど誰かの人生を揺らすほどではない。3日後には忘れています。

刺さる文章は、祝日の翌日に突然鳴る非常ベルです。

静かなオフィスに響く。「え、なになに?!」と顔を上げる。心臓がちょっと跳ねる。

それが刺さり。平穏を破る音。

でも、火事かどうかはわからない。ただ確実に注意を引く。それが刺さる文章の正体です。

ただし、ベルを鳴らし続ければ騒音になります。耳を塞がれ、二度と読まれません。「またあいつか」と思われる。最終的にはベルを壊されます。物理的に。だから鳴らすタイミングが重要なんです。

ここで重要なのは、消えた電球です。

刺さる文章を書こうとする人は、やたらと明るくしようとします。強い言葉。刺激的な比喩。断定の連打。ギラギラの照明。まるでパチンコ屋の入り口です。眩しい。目が痛い。でも中に入りたくない。

読者は眩しすぎると目を閉じます。

いっそ電球を一つ、消してみるんです。影を作る。余白を残す。説明しすぎない。消えた電球の下で、読者は自分の感情を探します。

この探す時間が、刺さりを生むんです。

明るすぎると何も考えない。暗いところがあるから想像する。その想像が文章を自分のものにします。

読みやすさは道。
刺さりは落とし穴。

安全に歩いていたはずなのに、ふと足元が抜ける。だがその穴は深すぎない。落ちた先にちゃんと着地がある。

つまり、読みやすさは前提条件です。

地面が整っていなければ、穴はただの事故です。工事現場の穴は危ないだけ。誰もおもしろがりません。

文章の構造はシンプルであるべきで。一文は短く。主語と述語は近く。話題は整理する。

ぬいぐるみの形をきちんと縫う。糸がほつれないように丁寧に。目玉もちゃんとつける。両方の位置を揃える。ズレたらそれはそれで味があるんですけど、まず基本を守る。

その上で、中に針金を一本仕込むんです。

針はあなたの本音です。少し恥ずかしい。少し偏っている。少しだけ世界に対して怒っている。

そこを隠さない。

隠すとただの優等生だから。優等生は好かれるけど愛されません。愛されるのは、ちょっとダメなやつっていつも決まってます。針金を持っているやつ。

人は整った文章ではなく、温度のある文章に反応します。

読みやすさは技術。刺さりは覚悟。どちらかだけでは足りません。

ぬいぐるみだけなら子ども部屋で終わる。針金だけなら、工場で終わる。両方あって、初めて作品です。

美術館に飾られます。値段がつきます。誰かが買います。家に持って帰ってリビングに置きます。そして、ときどき抱きしめる。まあ痛いけど。

祝日の翌日の静けさの中で、消えた電球の影を見つめながら、ぬいぐるみの背中にそっと金属を通す。

その狂気を、あなたは持てますか。

刺さる文章は、読みやすさの皮をかぶっています。読みやすい文章は、刺さりを隠しています。親戚同士だからこそ、似ていて、ややこしくて、切り離せません。片方を選ぶと、片方が寂しがります。両方連れて行くしかない。

やさしく縫って、静かに刺せ。

読者は痛みを忘れません。優しさも忘れません。でも、優しさだけだと忘れます。痛みだけだと嫌われます。両方あると、記憶に残ります。そして、また読みたくなる。もう一回抱きしめたくなります。痛いのに。

それが文章の魔法。ぬいぐるみと針金の奇妙な同居。読みやすさと刺さりの、不思議なバランス。祝日の翌日と非常ベルの、絶妙な組み合わせ。それを作れる人が、文章で人を動かせます。

今日から試してみてください。まずぬいぐるみを縫ってください。丁寧に。愛を込めて。そして最後に針金を一本、そっと入れてください。バレないようにね。でも、確実に刺さるように。

それができたら、あなたの文章は誰かの心に残ります。祝日の翌日に鳴る非常ベルみたいに。消えた電球の下の影みたいに。抱きしめると痛いぬいぐるみみたいに。

忘れられない文章を、作りましょう。​​​​​​​​​​​​​​​​
 

《前回の三題噺》
1.ぬいぐるみ
2.消えた電球
3.祝日の翌日

説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!

《今週の三題噺》
1.ブランコ
2.写真立て
3.カフェオレ

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