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「日本人には、踊る理由がいる」《水曜日のエッセイ by ヤス》

 
最近、盆踊りを見かけなくなった。子どもの頃は、夏の夜になると近所の小さな公園が、
急に巨大なステージみたいに変身したものだ。

赤と白の提灯がゆらゆら揺れて、なんだか「日本に生まれた」っていうだけで心のどこかが安心するような光景だった。

あの輪の中には、すごい秘密があった。真ん中のやぐらに陣取ったおじさんおばさんたちは、誰が教えたわけでもないのに、息がぴったり合った振り付けを繰り出していた。
「ドンパン節」のイントロが流れた瞬間に、どこの関節が覚えてるんだよってくらいスムーズに手がひらひらと空を撫でる。

でも、ふと気がつくとあの光景はほとんど絶滅危惧種になっていた。

夏の夜を支配するのは冷房とスマホと動画配信。「踊る理由」が、どんどん消えていく。なんだかそれが寂しい。

盆踊りって、ただ踊ってるだけじゃないと思う。あれは集団で思い出を共有する儀式だ。盆踊りの起源はお盆に関連するって説があるからね。
去年の夏のことを思い出しながら踊り、亡くなった人に「元気でやってるよ」と手を振る。

そして、「この街で一緒に暮らしてるね」と
名前も知らないおばちゃんたちと無言のハイタッチや握手を交わす。

それはSNSの「いいね」よりもずっと手触りがあるコミュニケーションだ。
だって、みんな輪になっているから。
足並みがそろわなくても、誰かの肩がぶつかっても、それで笑い声が起きる。完璧じゃないことが、盆踊りのいちばん美しいところだと思う。

日本人には、あの夜が必要だと思う。

失敗してもいいリズム、
ひとりじゃないと思える振り付け。
きっとそのうち、またどこかで赤と白の提灯がゆらゆら揺れる。そのとき、少し年を取った私もひらひらと手を動かせるように心のどこかに盆踊りをしまっておこうと思う。

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