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世直しライター木曜日《誹謗中傷拡散》〜短編小説〜


一書き、二書き、三書いて、
四書いて、誤解で燃えあがる。

顔も知らぬし素性も知らぬ。
アンタはアチキのなんなのさ。

この世は不条理。
発信者たちのテロリズム。

おっさん、おっさん、
助けてくんない?

「CをAの前にして」

放課後黄昏17時。
コメントもらえりゃあ
ペンを泣く泣く武器に変え、
AWCの意味を変えやすぜ。

Crime AWard.
罪の裁定。

award=「賞」と呼ぶなかれ。
雰囲気だけでご勘弁。

おっと申し遅れやした。
ひょっとこ仮面のヤスでございやす。


*****


ただ、注目されたかった。
SNSで人気者になりたかった。

ケイイチは一心不乱に指でスマホを叩きながらこれまでの日々を思い出す。

昨日までド素人だった高校からの同級生ジュンが、短文SNSサービス『Blue Bird(通称BB)』でバズった。バズとはたくさんの人に拡散されて反応をもらえる現象だ。

あれよあれよというまにジュンのBBアカウントは3桁から万フォロワーに。インフルエンサーみたいな人に目をつけられ、講演イベントに呼ばれるようになり、トントン拍子にいつのまにか人気者になった。

「SNSでいつか二人でBIGになろうぜ!」

何をもってBIGなんだろうか。大学生ならではの、よくわからないけど、何かで大物になりたい欲。「お金持ちになりたい」のような、掴みどころのない希望。蜃気楼の夢。

そんな掴みどころのないBIGを、ジュンだけが掴んだのだ。抽象から具体にできたのが、ジュンだった。

大学に入っても「BIGになろう!」はジュンとケイイチの合言葉だった。あの日までは。ジュンがバズを起こすまでは。

許せない。
俺とお前はずっと一緒だったじゃないか。

許せない。
既読スルーしやがった。

だから、これは、正当攻撃だ。

ケイイチは手元のスマホを、右手の親指で一心不乱に叩いていく。


*****


木曜日。

ーー今日も読みにきてくれてありがとうございます。あなたが持つエピソードは唯一無二。

毎日17時にnoteに記事を投稿しているのは、放課後ライティング倶楽部というオンラインコミュニティの主宰(リーダー)、ヤス。

「ふぅ。今日の投稿は完了っと」

書く人たちが自分の文章力を向上させるために集まった文章クラブ、放課後ライティング倶楽部だ。コミュニティ・サークル・ギルド・クラン・オンラインサロン。ぶっちゃけ呼び名はなんでもいい。

出版の経験があるヤスは、メンバーに向けて自分のもつ「書く技術」を文章論にしてnoteで発信している。

まぁ、そうは言っても、当のヤスは「まともな文章論は作家さんが書いてる本を読めばいい」と言う。本気なのか謙遜なのかふざけているのかわからないように聞こえるが、本人はいたって真剣である。

そんなヤスの元にnoteシステムから通知が来る。

『コメントのお知らせ』

……珍しい。コメントをしてもらえるような記事はほとんど書いていない。だからヤスはほんの少しだけひっかかった。

通知メールをクリックしコメントされた記事を開く。

なんてことはない木曜日の記事。他の曜日と内容に変わりはない。しかし、ある条件を満たしているコメントは特殊な意味を持つ。

17時10分ちょうど。木曜日に投稿される記事に合言葉をコメントをすれば、放課後ライティング倶楽部の“裏稼業”に依頼ができるのだ。


「CをAの前にして」


*****


『放課後ライティング倶楽部』(Afterschool Writing Club=略称AWC)は、手続きを経て入部したものだけが参加できるコミュニティだ。月額1,200円を払えば誰でも入部できる。

参加しているメンバー同士のコミュニケーションは、無料オンラインゲーム『ディスクライブ・メソッド・オンライン(略称DMO)』内で行われる。いま流行りのVR(仮想現実)を用いたMMORPGゲームだ。MMOとは、ゲームで遊んでいるプレイヤー達がみんな同じ世界を共有するシステムである。

数年前に開発されたVRゲームシステム。まるで自分がゲーム世界にいるかのような体験をできるのだ。ゲームなのに視覚・聴覚・嗅覚が本物のように感じられる。触覚と味覚はまだ発展途上である。

人気ゲーム『ファイナルクエスト』がVRゲームに参入して以降、VRシステムは全世界で瞬く間に普及した。なにせゲーム内のキャラやモンスターが目の前にいる感覚を味わえるのだ。その没入感はこれまでのゲームを全て過去にした。ヒットしないわけがない。

ディスクライブ・メソッド・オンラインは最近リリースされたゲームだ。このゲームは基本プレイは無料で、ゲーム内の特殊なアイテムを手に入れる時だけ課金する。アイテム課金システムを採用しているVRゲームである。

無料なので敷居が低い分プレイヤー人口は多い。ゲーム性が少し特殊なので、純粋にプレイする目的でなく、コミュニケーションツールとして活用しているユーザーがほとんどなのがこのゲームの特徴である。“新しいSNS”とも呼ばれている。様々なコミュニティがDMOを利用している。


*****


オンラインゲーム『ディスクライブ・メソッド・オンライン』内にギルド『罪の裁定CAW』がある。ギルドとはサークルみたいなものだ。放課後ライティング倶楽部のギルドももちろん存在する。

ギルドは条件さえ満たせば誰でも入ることができるのが一般的だ。放課後ライティング倶楽部の加入条件は毎月1,200円を払った人だけが加入できる。CAWは“依頼者”と放課後ライティング倶楽部の一部のメンバーだけが参加を許されるギルドだ。リーダーが許可をしないと参加はできない。

ヤスはコメントをくれた相手、つまり“依頼者”にnoteからメッセージを送り、コメントを削除した。合言葉はいつまでも放置できない。

「はじめまして、ヤスと申します。オンラインゲーム『ディスクライブ・メソッド・オンライン』にアカウントを作成してログインしていただき、ギルド『CAW』に参加手続きを送ってください。加入申請は私がすぐに承認します。参加できたらメニュー画面から『ギルドホールに転移する』を選んでください。CAWのギルドホールでお待ちしております」


*****


ジュンは悩んでいた。悩むどころではない。スマホから通知があるたびに吐き気を催すまでに精神が疲弊していた。来る日も来る日も正体不明なBBアカウント(捨てアカ)から誹謗中傷を受けているのだ。

夜な夜なホテルで乱交パーティーをしてるだの、薬をやっているだの、借金まみれだの、フォロワーは金で買っただのと、捏造記事のオンパレードだ。

「ほんとやめてくれてよ。勘弁してくれよ」

BBで発信した自分のツイートをアンチが引用してくるからどうしようもない。だから発信するのが怖い。捏造された誹謗中傷記事を信じる人まで現れ始めたのだ。

スマホを開きたくない。

バズったあとは、あまりにも通知が多くきすぎて電源を切ったが、今回はもちろんそんな理由ではない。見たくない。心が、壊れていく。

もうSNSはやめよう。
アカウントを消そう。

スマホの電源を付けたと同時にプライベートの電話に着信。ジュンのツイートをBBで拡散してくれ人気者にした、糸重(イトシゲ)さんからだった。

「あ、ジュンくん、やっと出てくれた。大丈夫?」

「……糸重さん、僕、もう消えたいんです」

絞り出した声は、泣いていた。


*****


ディスクライブ・メソッド・オンライン内に無数あるギルドのひとつ『CAW』
木曜日の記事に合言葉をコメントした依頼者が参加できるギルド(グループ)だ。

ジュンがCAWギルドに加入した旨のシステム通知が送られてくる。ジュンの参加を確認したヤスは、すぐさまギルドホールに移動する。

システム通知から1時間後くらいにジュンがギルドホールに姿を見せた。なんの特徴もないキャラだ。おそらくデフォルトキャラなのだろう。ちなみにヤスのキャラはひょっとこ仮面(課金アイテム)を被った黒スーツ姿だ。

現実と同じように、ゲーム内ではキャラ同士が話し合えるのだ。これがVRゲームのおもしろさである。

「ジュンさんかな? 初めまして。ヤスです。ジュンさんはどうやってここの存在を知りました?いや、形式的な質問です。“CをAの前にして”なんて変な合言葉を知っているのなら、必ず紹介者がいるはずですから」

「はじめまして。ジュンと申します。糸重さんから教えてもらいました。よろしくお願いします」

「あー!そうでしたか。
糸重さん経由ですと、
SNSやブログで炎上させられたか、
あるいは誹謗中傷のお悩みですか?」

「ぜんぜん知らないアカウントから
攻撃されているんです。
書かれているのはぜんぶ嘘なんです。
ここでそういった問題を解決してくれるって聞いたのですが、本当でしょうか」

「それなりの料金は頂きますけど
お力にはなれますよ。

今からジュンさんにお話を伺い
その問題が本当かどうかこちらで
調査してからにはなりますけどね。

話を聞く前に先に聞いておきます。

ジュンさん。
本音でどうぞ。


復讐と抹殺。


どちらにいたしましょうか?」


*****


依頼者。
SNSやブログ・掲示板で誹謗中傷されたり、炎上したりさせられたり、陰湿なイジメを受けている人たちだ。

警察や弁護士には相談できない。
だけど苦しんでいる。

シロウト人気者の有名税といえばそれまで。
しかし命まで税としてとられちゃあ、たまったもんじゃない。

放課後ライティング倶楽部(略称AWC)には裏の稼業がある。

毎週木曜日に投稿している記事に「CをAの前にして」とコメントをすれば、彼女ら彼らに依頼ができる。コメントする時間は17時10分きっかり。それで依頼が完了する。


ネット問題解決代行。
SNSの仕事人。

人呼んで
世直しライター集団。
『罪の裁定』
Crime AWard.(クライムアワード)
略して、CAW。


*****


どこで、バレた?

ケイイチは今日もジュンを攻撃する記事を書いていた。「ジュンの過去はイジメられっ子」とまぁ、それほど強い記事ではない。が、あいつを追い詰めるジャブにはなるだろう。

アップしようとしたら、通知がけたたましく鳴り響く。前に出したツイートがありえないスピードでシェアされ始めたのだ。

お、ジュンが大学で盗撮したツイート(捏造)だな。よしよし。いいぞいいぞ。燃えろ燃えろ。

どれも引用でリツイートされている。そのうちの一つを見て、ケイイチは思わずスマホを落としてしまった。

「なんで?」

引用された文に、こんなことが書かれていたのだ。「ケイイチは承認欲求まみれの捏造屋さん」

……どうしてバレた。
名前まで何故バレた。

通知は止まらない。その全てにケイイチの名前が貼り付けてある。通知が止まらない。


*****


「え、もう復讐はいいんですかー?」

『CAW』
特定の人物しか入会できない特別なギルド(グループ)である。
CAWギルドのホール(メンバーだけが入れる談話室)にいるのはヤス、ジュン、そして放課後ライティング倶楽部メンバーのひとり、助さん(すけさん)。「もういいの?」と発言したのは助さんだ。

「はい。相手がケイイチだと確定したときに、もう依頼を取り下げようとしたんですけど、やっぱりもやもやが晴れなくて続けてもらいました。やり返したい気持ちもありました。

でも、もういいです。

あいつは親友なんです。ぼくが忙しくなって疎遠になってしまって、それでこんなことになったと思うんです」

ヤスが続けて発言する。ひょっとこ仮面を付けているせいで表情はわからない。

「そういうことだって、助さん。どうする?」

助さん(すけさん)と呼ばれた人物、彼の裏ペンネームは「拡散(かくさん)」

令和の時代なら、意味不明なネーミングかもしれない。昭和鉄板時代劇「水戸黄門」のキャラクター、助さん格さんのオマージュだ。キャラの見た目も江戸時代の職人っぽい。助さんは拡散のプロだ。

助さんはジュンの誹謗中傷記事を分析し、ある特定の人物しかわからないような内容から、事前に聞いていたジュンの話から犯人がケイイチだと特定させた。

そこからは早かった。ケイイチがやったのと同じように捨てアカウントを大量に作成しケイイチのツイートを拡散させたのだ。すべてにケイイチを非難するような引用文を添えて。

「まー、ご本人がいいって言うのなら、いいんでないっすかー?

あー、でも、ヤスリーダーとジュンさんにはちょっと謝罪することがありましてねー」

「ん?謝ること?なに?」

「ケイイチさんを、お呼びしてますー」

「……は?」

“ケイイチがCAWに参加しました”

システムからの通知文が視界に表示される。ここは仮想現実のゲーム空間だ。

「ジュン! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

ケイイチの長い独白と謝罪と嗚咽が、ギルドホールに響き渡る。


*****


“ジュンがCAWを退会しました”
“ケイイチがCAWを退会しました”

「はぁー、謝罪がクソなげーよー。プライベートでやってくれよー」

「あはは。助さん、お疲れ様でした。まぁ、これが仕事だからねぇ。ギャラはPayPay?振り込み?」

「んじゃあPayPayでー。

やー、今回は足がつくのが早かったっすねー。ケイイチのやつ、めっちゃ自分の痕跡残しまくってるし。あんなん素人でも追跡できまっせ。これも自分を知って欲しい、承認欲求なんっすかねー。

なのにちょっと追い詰めたら、即おれに泣きついてきましたからねー。だからリーダーの許可を取らず、ここに連れてきたわけで。申し訳ないっすー」

「あんまり勝手にギルドに入れないでね。

まぁね。やっかいだよね。
親友が人気者になる。
応援してあげたらいいのに、
『どうしてアイツだけ人気者に。キィ!』
ってなっちゃうんだろうな」


“ケイイチが退会を取り消しました”


「……はー?」

「しまったな。助さんと話していたせいでここを閉じてなかったな。ギルド退会は誤操作防止のため退会から1時間以内なら取り消しができるんだよ。

なに、ケイイチさん?
ここのギルドは、案件が終われば毎回すぐに解散するんだけど」


「すいません、ヤスさん。こんな事件起こしちゃったおれが言うのも筋違いなんだけど……その……おれになんとか、文章の書き方を教えてくださいっ!」


……は?


おしまい。


《この物語はフィクションであり登場人物・団体名等は放課後ライティング倶楽部とメンバーの一部以外は架空のものです》

◆あとがき
長い文章を読んでくれてありがとうございます。初の短編物語を書いてみました。イメージはライター版の必殺仕事人です(古いか)。ご意見・ご感想・フォロー・誹謗中傷をいただけるととても嬉しいです。つづく、のか?!続けたいのでコメントお待ちしております!

[画像協力:さちわ]

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