いいなと思うと、つい真似してしまう《今週の三題噺発表》
「七色の文体を操る男」みたいに言われることがある。
いやぁ、そんなかっこいいものではないのよ。ただ、「いいなぁ」と思った人の影響を、わりと真正面から受けているだけで。
もう少し正直に言うなら、影響という言葉の上品さに甘えているだけで、かなり真似している。パク…そこまで言うと軽犯罪のにおいがしてくるので、やはり「影響を受けている」がちょうどいい。
昔からそうだった。
中学の時、好きな子の文字を真似したことがある。なぜそんなことをしたのか、いま冷静に振り返ってもよくわからない。
たぶん近づきたかったのだと思う。
その子の丸い「み」とか、少し右上がりの「す」とかを見ているうちに、文字までかわいく見えてきて、自分のノートにもその気配を移植しようとしたのだ。
結果、バレて気持ち悪がられた。
そりゃそうである。
好意の表現としては、地下街のすみっこでひっそり営業している店みたいなかなりの暗さがある。もっと表通りでやれよ。
その頃からずっと、人に惹かれると真似したくなる性質は変わっていない。
服でもそうだ。古着屋で「これ、あの人が着てそうだな」と思うと欲しくなる。似合うかどうかは二の次で、まずその人の空気を少し借りたくなる。生き方そのものは難しくても、シャツ一枚ならなんとかなる気がするから不思議だ。
なんともならないことも多い。
鏡の前には、憧れの人ではなく、ただ少しサイズ感を見誤った私が立っている。
文章もそれとたぶん同じなのだと思う。
好きな作家さんや書き手さんの文を読んでいると、言葉の置き方や、ふいに笑わせる角度や、胸の奥を触ってくる感じが、どうしても手に入れたくなる。自分でもやってみる。
文の歩き方を真似する。
息継ぎの位置を真似する。
すると、たまたまそれが「引き出しが多い」とか「七色の文体」とか言われる。
いや、七色って。
こっちは地下街の衣料品店みたいにあちこちで「いいな」と思った服を試着しているだけなんですけどって。
うまく言えないけど華麗な変身というより落ち着きのない試行錯誤である。
でもね、
真似ってそんなに悪いことでもないのかもしれない。
真似しないで何かを身につけるほうが難しい。
喋り方だって、最初は親の真似だし、友だちの口ぐせだってうつる。昔は公衆電話のかけ方を大人の真似で覚えた。受話器を持ち上げるタイミングとか、小銭を入れる手つきとか、ああいうのも全部を誰かのやり方を見て覚えてきた。
そう考えると、文体だけ突き放されて「完全オリジナルでどうぞ」と言われても、だいぶ無茶だ。
真似って「なりたい自分への最短距離」なんですよね。その人そのものにはなれない。なれないけど、ちょっとでも近くに寄りたくて、言葉を借りたり、服を借りたり、時には文字の丸みまで借りようとしてしまう。
そしてまぁ、たいてい失敗する。
失敗するけれど、その失敗の跡があとから自分の形になっていく。
だから今は真似してしまう自分を前より少しだけ許している。もちろん、丸ごとコピーして威張るのは違う。
でも、「好き」が多い人の文章が落ち着きのない配色になるのは、もう仕方がない気もする。
七色の文体を操っているわけではない。いいなと思った光をついポケットに入れて帰ってしまうだけだ。
その結果、ちょっと統一感のない人になる。
でもまあ、それが今の私なのだろう。
《前回の三題噺》
1.地下街
2.公衆電話
3.古着
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.セルフレジ
2.非常口
3.こんにゃく
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