読まれる本音と、読後に口が悪くなる本音──他人を下げる本音より、自分が負けを認める本音《今週の三題噺発表》
人は本音に惹かれる。
ただし、その本音がナニイロかは思っている以上に大事で。
電池切れのリモコンみたいな文章というのがあるんですね。ボタンは押してる。たしかに押している。本人もけっこう真顔で。
でも全然動かない。見ている側だけが「あ、今ちょっと空気まずくなったな」と感じて。
SNSでたまに見かけるのよ。たしかに本音で書いている。かなり本音で書いている。
でも、その本音の中身がほぼ他人への悪口って。
ちょっと整理しよう。
文章論ではよく、「本音を書け」と言われる。
それはたしかにそう。
きれいごとだけで組み立てた文章より、ほんのり体温のある本音のほうが、そりゃ読んでいておもしろい。
なんだけどね、本音なら何でもいいわけではない。
本音にも、読者の口の中でちゃんとほどけるものと、読んだ瞬間に「ん、なんか今、変なもの噛んだな」となるものがある。
他人への悪口。
あの人が浅い。あの人がズルい。あの人の発信は薄い。あの人の人気は中身がない。
こういう本音は書いた本人にとってはたしかに切実かもしれない。かなりリアルでもある。
でも読者がそれを読んで楽しいかというと、だいたい微妙。
読者は知らない誰かの陰口に参加したいわけではないから。
読者が求めているのは、給湯室の隅でこっそり始まるお局様の悪口大会ではなく、自分の感情まで少し動く何かだ。
悪口の弱点は、景色が狭いことだね。
視界がその相手ひとりに固定される。すると文章が文房具好きの人が新品のペンを語るときの熱量ではなく、机の引き出しの中でひとりキリキリしているバラバラのクリップみたいになる。
なんだか音はする。存在感もある。けれど、そこから世界は広がらない。読者の気持ちもそこまで乗れない。
一方で、賞賛や嫉妬や羨望から出てきた本音は、案外跳ねる。
「この人すごいな、悔しい」
「うらやましい。なんで私はああできないんだろう」
「負けた感じがして腹立つけど、でも認めるしかない」
こういう本音は読んでいて人間が見える。
他人を下げるのではなく、自分の揺れが出ているからだと思う。
読者はそこに自分の感情も重ねやすい。
ああ、わかる。
私もそういう悔しさある。
そうやって文章がひとりの悪口からみんなの感情へ広がる。
本音の種類が大事なんだ。
毒舌っぽく見える文章でも、実は自分の弱さや羨望がちゃんと入っているものは意外にスラーっと読める。
逆に言葉チョイスは鋭くても、芯がただの見下しだとすぐに目は止まる。
スイートポテトみたいなものかもしれない。
見た目が少し焦げていても、中がちゃんと甘くて素材の匂いがしていれば、人はまた食べる。
でも焦げしかないものを「大人の味です」だなんて言われても「いやそれはただの失敗作では」ってなる。
毒舌がウケると思っている人は、そこをたまに見落とす。
キツいことを言えばおもしろくなると思っている。
読者はそんなに単純ではない。
読者が読んでいるのは言葉の強さだけではなく、その奥で何を感じているかだ。
ほんとうに言いたいことが「私はあの人より正しい」だけだと、意外とすぐ透ける。
スケスケで喜ぶのはおっさんくらいで、見下しが透けると人は刹那に離れる。
だって、そこに一緒にいたい感じがしないから。
跳ねる文章は他人を裁く本音より自分が揺れた本音のほうから生まれやすい。
悪口は本人のストレス解消にはなるかもしれない。けど、読者の楽しみにはなりにくい。
その点、嫉妬や羨望はまだ豊かだ。
自分の未熟さも、悔しさも、認めたくなさも入っている。
だから人間が出る。
人間が出ると、読者は読む。
本音を書くのは大事だ。ただし、本音なら何でも放てばいいわけではない。
その本音が、
読者にとって景色になるか。
感情が少しでも開くか。
そこが分かれ道なのだと思う。
毒があること自体が悪いのではない。
毒の向きが雑なのがよくない。
外へ向かってただ撒くのではなく、いったん自分の中で「なんで私はこんなに腹が立つのか」「なんでこんなにアイツが気になるのか」まで掘る。
そこに羨望や悔しさや、ちょっとした敗北感が見えたら、その文章はスッと読めるようになる。電池切れのリモコンだった言葉が、そこでやっとちゃんと効きはじめる。
《前回の三題噺》
1.電池切れのリモコン
2.文房具好き
3.スイートポテト
説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!
《今週の三題噺》
1.ジェネリック
2.令嬢の復讐劇
3.回転寿司
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人の悪口を書いてはいけない“裏”の理由
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