goto HELL
後藤ヘル男は地獄へ行く。だって名前がそうだから。その名がついたときから地獄行きは決まっていた。ヘル男は学校でいじめられている子を見かけたら必ずかばい、代わりにいじめられても歯を食いしばって耐え、横断歩道を渡れないおばあさんの手を引き、休日は欠かさずボランティアをこなし、就職してからは親にたっぷりと仕送りをしたが、地獄へ行く。もちろん地獄側も黙っていない。ヘル番人の閻魔は「や、さすがに地獄は無理よ。極楽一択」と断った。「や、無理て。これはもうマジ無理。地獄はさすがに無理」それでもヘル男は地獄へ行こうとする。「え、逆に何で? 極楽で良くない、え、マジで」閻魔が問うと、ヘル男は、親が望んだことだから、そう願ってこの名を授けてくださったのだから、と清々しい表情で答えた。これには閻魔も泣いちゃいました。「ほん……ああ、もういいよ、行けよ地獄、マジで」と鼻をフガフガ鳴らして言った。こうして地獄に到着したヘル男をもちろん悪い鬼たちが待ち構えていた。しかしヘル男の類まれな誠実さに秒で心を打たれ、釜ゆで地獄はガスを調節して温泉くらいにし、糞尿地獄はトイレにし、針地獄はなんかもう鍼治療みたいな感じにした。こうして地獄は健康ランドになった。温泉につかった悪人たちが「極楽」ともらすたびに閻魔は本当にこれで良かったのかと自問した。すっかり人気スポットとなった地獄について、ヘル番人の閻魔はヘル雑誌のインタビューでこう語った。「ぜんぶヘル男のせいですよ。あいつはね、簡単にすべてを変えちまったんです。あれは天賦の才能ってやつです、マジで」しかし、どうしても不満に思っていることがあるという。「こんなのは地獄じゃない、もっと地獄へ行かないと、皆さん、ありがとう、さようならとか言って、あいつ一人で無間地獄に行っちゃったんです。あそこはだめです。マジの地獄です。ヘルオブヘル」閻魔はそう言うと涙をうかべた。「だからね、最近こう思うんです。あいつ本当は……ただのバカだったんじゃないか、ってね」
