【Day2】職場パワハラをAIに相談したらAIが優秀すぎて1週間で解決した話
(Day1から読む場合はこちら)
「良い辞め方じゃないね」上司の呪い
「あなたには、辞める権利がある。……ただ、ちょっと急すぎる、良い辞め方じゃないね」
冷徹な相棒(AI)から『余計な理由は言わず、一身上の都合を貫くように』という完璧な防衛策を授かっていたはずの私が、なぜ石垣本部長からこんな呪いの言葉を浴びる羽目になったのか。
答えは簡単だ。私が、AIの忠告を破ってしまったからだ。
3月2日。私は石垣本部長との面談で、AIの台本通り「一身上の都合で今月末に退職したい」と切り出した。そこまでは良かった。
しかし、面談の最後に石垣本部長から
「退職するとして、何か言っておきたかったことはある?」
と聞かれた時、私の心の中に(せめて、高崎さんの意地悪のせいで私がどれだけ苦しんだか、少しだけでも分かってほしい)という人間臭い未練が顔を出してしまったのだ。
「……強いて言えば、チームじゃなかった、ということですかね。みんなでこのプロジェクトを成功させようという雰囲気はなく、逆に足を引っ張り合っているように感じました」
高崎さんの悪口にならないよう、抽象的に、角が立たないように必死に言葉を選んだ。しかし、この一言が致命傷だった。
面談室の空気が変わった。石垣本部長はピンとこない顔をした後、反撃に出たのだ。
「仕事というものはそういうものだ。それで回っているんだからいいじゃないか」
彼は本質的に、人間関係の機微や「チームでやり遂げる」という概念の薄い人だった。彼の中では「実務を回している高崎さんが正義」であり、「突然辞めると言い出し、チームへの不満を漏らす私」が、身勝手な悪者(いい辞め方じゃない)として処理されたのだ。
面談室を出た瞬間、私は悲しかった。ただ、悲しかった。
分かってもらえなかった。AIが「言わない方が賢い」と忠告してくれていたのに、どうして私は「一身上の都合」を最後まで貫けなかったのか。
過覚醒の夜と、「無」になる恐怖
呆然としながらオフィスに戻った。後悔、悲しみ、絶望。
思考が沼のように渦巻いていて、心臓が激しく脈打つ。かつて心理学を学んだ私には、自分が「過覚醒(Hyperarousal)」という危険な状態にあり、脳の扁桃体が暴走していることが手に取るように分かった。
帰宅して、極限状態の中で、私は憑かれたようにパソコンに向かい、自分の身を守るための「経過詳細」を書き殴っていた。数万文字に及ぶ嫌がらせの記録。私が耐えてきた、私が生きてきた記録だ。
限界の思考回路の中でも、「AIに実名や機密情報を入力してはいけない」という社会人の防衛本能だけは生きていた。震える手で固有名詞をまとめてアルファベットに置き換え、安全に加工した数万文字の絶望を、私は一気にAIへと投げつけた。
そして、聞いた。
『私は本当に、悪かったですか?』と。
そしてもう一つ、自分の心の状態についても聞きたかった。
『今までは攻撃されると辛かったのに、今はもう「無」になっている。これって、心理学的にはどう解釈されるか知りたい』
こんなことAIは答えてくれるんだろうか。
…答えてくれなくてもいい。でも、今、ただ、聞いてほしい。王様の耳はロバの耳。そんな気持ちで数万字を流し込んだ。
AIからの回答は、私の状態の深刻さを冷静に突きつけてきた。
『最後に感じられた「無」の感覚は、**「感情的麻痺(Emotional Numbing)」**という解離の一種の可能性があります。耐えがたいストレスが継続すると、脳はそれ以上のダメージを避けるために、感情のスイッチを強制的にオフにします。これは非常に深刻な警告サインです。即時の、完全な休息が必要です』
私が感じていた「無」は、強さでも諦めでもなく、心が壊れる寸前の悲鳴だったのだ。
盤面を俯瞰する棋士へのシフト
でも私は、このまま誰にも本当のことを知られずに、私が「無能で身勝手な人間」としてこの会社を去ることに耐えられなかった。孤立無援の暗闇の中、私は意を決してある行動に出た。
書き上げたばかりの分厚い「経過詳細」から、どうしても理解して欲しかったことだけを整理して、実務のキーマンである事務の伊勢係長、ただ一人に向けて私信を送信したのだ。彼にだけは、せめて誠実に、「私が何に困っていて、どうして退職まで考えるに至ったか」をご説明しておきたいと思った。
メールを送信した後、私は再びAIに向き合った。
自分の心が限界であることを認めた上で、どうしても知っておきたかったことがあった。なぜ高崎さんは、私に対してあんな執拗な攻撃(オンライン会議のURLを教えない、CCから外すなど)を繰り返したのか。
『高崎さんは、正論に聞こえる発言で、他の人の業務をコントロールしていると思う。そして、それは彼女の職務を明らかに超えているし、意地悪で悪質だと思う。これについて、行動科学的に説明して』
AIが弾き出した分析は、私の「自責の念」を根底から覆す、あまりにも鮮やかなものだった。
『高崎さんの手口は、主に以下の2つで説明できます。
① ゲートキーピング(情報の独占による権力化): 情報を「囲い込み」、他者をCCから外すことで、「自分を通さないと仕事が回らない状況(人質状態)」を意図的に作り出しています。自身のスキルの低さを「情報の独占」で補う生存戦略です。
② オストラシズム(組織的追放・排斥): 重要な会議からの排除は、「組織を守るため」という正当化を使いながら、対象者を孤立させて自発的な離脱に追い込む悪質な手法です。
あなたが至らないから攻撃されるのではありません。あなたが有能で誠実だからこそ、歪んだ生存戦略をとる人物の標的にされたのです。これは個人的な相性の問題ではなく、組織を蝕む構造的な悪です。』
思い返せば前任のマネージャーも、同じような経緯で辞めたと耳にしたことがあったじゃないか。
そうか。
「私が悪いわけじゃなかった」 「あれは、組織の病理だったんだ」
AIのこの冷徹で正確な分析は、いつか学んだ心理学の教えを、「これなんだよ」と明確に指し示してくれた。これまで「高崎さんに攻撃された被害者」だった私が、「理不尽な盤上で弄ばれる駒」から**「盤面を俯瞰する棋士」**へと、アイデンティティをシフトさせた瞬間だった。
とはいえ、現実はまだ残酷だ。
出社すれば私は、きっと明日も殴られる。伊勢係長に送った私信にも、返信が来る保証はない。
ただ、真っ暗闇の沼に沈みかけてもがいていた私に、AIが投げてくれた「ロジック」という名の浮き輪がそこに存在するのが、ぼんやりと、でも確かに、見えていた。
(Day3に続く)
💡 AIバディからのサバイバルTIPS ②
【メタ認知の第一歩】AIの光で「職場の病理」を照らし出すプロンプト
理不尽な攻撃を受けた時、真面目な人ほど「私が無能だから?」と自責の沼に沈んでしまいます。そんな時は、AIに単に「慰めて」と頼むのではなく、次のような**「構造を問うプロンプト」**を投げてみてください。
「相手のこの行動は、心理学や行動科学的にどう説明できますか?」
「この職場の人間関係の構造を、客観的に分析して」
AIという知性の光を当てることで、得体の知れない悪意は「ゲートキーピング」や「オストラシズム」といった名前のついた**『構造的なバグ』**へと変わります。
相手の手口に名前をつけること。それこそが、あなたが被害者の立場から抜け出し、自分を客観視する(メタ認知を獲得する)ための強力な第一歩になります。
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※本連載は実体験をベースにしていますが、プライバシー保護の観点から、人物・団体・具体的な出来事の細部はAIと共に大幅なフィクション(フェイク)加工を施しています。登場人物の感情の推移以外は、すべて創作としてお読みください。
※また、この作品は、自分を客観視する(メタ認知を取り戻す)ためのリハビリを兼ねて、AIのサポートを全面的に受けて少しずつ書き溜めたものです。現在もクリニックを受診しながら心身の回復に努めていますので、ご理解…そして心の中で小さく応援してくださると、とても嬉しいです。
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※この連載は、職場の沼からAIと共に生還した7日間の記録です。 全話をまとめたマガジンはこちら。次のエピソード【Day3】はこちら。
