エロスという爆弾_現代社会の相反する恋愛ゲーム
恋愛めんどくさい
「恋愛コスパ悪い」「マッチングアプリ疲れた」「もう誰も好きになりたくない」
SNSをスクロールしていると、こういう言葉が流れてくる。
さて、
「恋愛できない」という話をする前に、「恋愛が壊れたゲームになっている」という話をしなければならないと思う。
すなわち、プレイヤーの問題ではなく、ゲームの設計が壊れている可能性がある。
この仮説は1960年に書いた人がいて、名前がC.S.ルイス。ナルニア国物語の作者として知られているけど、彼が書いた『四つの愛』は現代の恋愛を読み解く上で驚くほど正確な地図になっている。
ルイスが解剖した「エロスという爆弾」
ルイスは愛を4種類に分類した。
ストルゲー(家族愛)、フィリア(友情)、エロス(恋愛)、アガペー(無償の愛)。
このうち、今日のテーマはエロス。
ルイスのエロス定義は思いのほかシンプルで、そして思いのほか怖い。
「エロスとはある特定の人を欲する状態である。単に快楽を求めるのではなく、その人そのものを求める」
すなわち「あなたでなければならない」という排他性。これがエロスの本質。
ルイスは続ける。
エロスには3つの構造的危険があると。
危険①「永遠を誓わせる」問題
エロスは人に「永遠に愛する」と言わせるほぼ唯一の感情だ。
でも、
「エロスは誓いを生む。しかしエロス自身はその誓いを守る力を持たない」
感情が誓いを作る。しかし感情は変わる。これがすべての悲劇の構造だ。
危険②「神の位置を奪う」問題
エロスは「愛しているから仕方ない」と人に言わせる。不倫も、嘘も、裏切りも、「愛」の名のもとに正当化される。
ルイスの言葉を借りれば、エロスは自分を絶対化しようとする。かつて神だけが持てた「すべてを許す力」をエロスは横取りしようとする。
危険③「自壊する」問題
エロスだけで成立する関係は時間とともに必ず劣化する。エロスは強度を本質とするからだ。炎は燃え続けるために、燃料を必要とする。
ここまでがルイスが1960年に書いたこと。
そしてここからが現代の話。
【生物層】エロスは「永遠」と「排他性」を求めるように設計されている
↕ 矛盾
【社会層】現代の制度が「永遠」と「排他性」を解体している
↕ 矛盾
【心理層】選択肢が増えるほど、満足できなくなるプレイヤーのせいではない。ゲームの設計が本能と真逆の方向に走っている。
より残酷なのはこの矛盾が「自由」という名のもとに提供されていること。
「好きなだけ選べる」「縛られなくていい」「いつでも別れられる」
これは確かに自由だ。でもエロスにとってこの自由は毒に近い。
なぜか?
それは、エロスは制約の中で強度を持つから。
禁じられた恋が燃えるのは比喩ではない。制約がエロスに酸素を供給する。
自由にしすぎると、爆弾は爆発しない。
ただ、じわじわと劣化する。
ではどうする?_ルイスの処方箋
ルイスはキリスト教神学者。
そんな彼の処方箋は「アガペー(神の愛)によってエロスを秩序づけよ」というもので、非宗教的な現代人には受け取りにくい部分もある。
でも、その核心を神学から切り離して読むと、こう理解できる。
エロスだけに賭けるな。エロスを支える「他の愛」を育てよ。
フロムは『愛するということ』でこう言った。
「愛は感情ではなく、技術である」
エロスは燃料だ。しかし燃料だけではエンジンは動かない。構造が必要だ。
ルイスが言う「アガペー」を宗教語を使わずに言い直せば──「見返りなく、相手のために動こうとする意志」。
これはエロスとは独立して存在できる。そしてこれがあってはじめて、エロスは自壊を免れる。
友情(フィリア)も同様。
ルイスは言う。「最良の恋愛は最良の友情の上に成立する」
「向き合う」だけでなく、「共に外を向く」──同じものを見て、共に笑える関係。エロスだけでなく、フィリアも育てること。これがルイスの処方箋の別の読み方。
無理ゲーの中で何を選ぶ?
現代の先進国に生きる若者は確かに「恋愛の無理ゲー」の渦中にいる。
ゲームの設計は壊れている。本能と制度が逆方向に走っている。選択肢が多すぎて、選べない。自由すぎて、根が張れない。
でも、ここで終わるのは早い。
無理ゲーには2つの対応がある。ゲームをやめるか、ゲームの理解を深めるか。
ルイスが教えてくれるのは後者だ。エロスの本質を知った上で、エロスだけに依存しないこと。フィリアを育てること。意志としての愛を感情としての愛と並走させること。
それは恋愛を「諦める」ことではない。爆弾の扱い方を学ぶことだ。
爆弾は危ない。でも扱い方を知れば、その熱は何かを灯す。
1. あなたの「エロス」は今どの状態?
信管が点火しない状態?燃料切れの状態?それとも自壊の途中?
2. 恋愛に「フィリア」はあるか?
向き合うだけでなく、並んで同じ方向を見られる相手がいるか?
3. 「意志としての愛」をあなたは選べるか?
感情が冷めたとき、それでも動こうとする意志──これを育てることに、あなたは興味があるか?
“Eros, honored without reservation and obeyed unconditionally, becomes a demon.”
── C.S.Lewis, The Four Loves
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