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【短編小説】猫とブランコ #シロクマ文芸部

ブランコに猫が乗っている。乗っているだけではない、漕いでいる。前足の爪をブランコの座面に突き立て、体重移動と巧みなバランス感覚で器用に漕いでいる。


失恋をした。付き合っていたわけではないし、むしろ告白もしていない。

一目ぼれだった。高校に入学した最初の隣の席の女の子。知らず知らず姿を追い求めていた。

昨日の昼休み、女子たちの噂話が聞こえてきた。「市川、ずっと玲奈のこと見てるよねー!てか、どうなの?」「いや、普通にキモいし。ムリっしょ」

ぼくの恋はキモいというナイフに貫かれ、えぐられ失血死した。

すでに始業時間はとうに過ぎていたが、ぼくは公園のベンチから動くことができずにいた。

そんなぼくの前でブランコを漕いでいるのが、猫だ。

ブランコは徐々に振り幅を増していく。猫は振り落とされまいと必死に爪を立てている。ブランコがほぼ90度の角度まで振り上げられた瞬間、猫が空を舞っていた。



私が住んでいる町、猫又町には1匹の親分猫がいる。毎年、【猫又親分ニャンバーワン】という大会が開催され、そこで1匹の猫が親分にまつり上げられる。

私は妹と2匹きり、気ままに自由に生きていた。だから親分なんて興味もなかったし、なる気もさらさらなかった。

だが先日、妹が耳に怪我を負って帰ってきた。聞けば現親分のジンゴロウに言い寄られたが、冷たくあしらったらしい。すると大勢の手下に追いかけ回されたあげく捕らえられ、ジンゴロウの前に引きずられていった。ヤツは妹の耳に噛みついた。

美しくピンと立った妹の耳の先は、ネズミにかじられたチーズのように欠けていた。

自由に生きるには、それ相応の力がいるらしい。

私は大会に出ることを決意した。必ず親分になり、ヤツの玉を噛みちぎって、この町から追い出してやるのだ。


大会は、町内をぐるりと周るコースをいかに早く駆け抜けるかを競い合う。

塀の高さが一軒ずつ違う『あべこ塀』。

猛犬の縄張りの『入らずの庭』。

猫嫌いのばあさんが水をかけてくる『滝行の軒先』。

思わず入りたくなる段ボールが積み上げられた『魅惑のマトリョーシカ』。

などなど、過酷な障害が待ち受けている。

そして最後に猫又公園のブランコを飛ぶのだ。かけっこで早かった方は、その分ブランコの飛距離にアドバンテージがある。

1煮干(煮干を食べきる時間、だいたい2秒)早かったら1肉球(肉球1個分の距離、だいたい3センチ)が飛距離に加算される。

妹をヤツの魔の手から救うため、なにより妹のかわいい耳の落とし前を付けてやらなければならない。

大会は明日だ。姉ちゃんのかっこ悪い姿を、妹に見せるわけにはいかない。



黒猫が空を舞っている。太陽の光を浴びて、ビロードのような毛皮がキラキラと輝いていた。

猫は空中で一回転すると、軽やかに着地した。

思わず立ち上がり拍手をしそうになる。猫を驚かせてはと思いとどまったが、胸の奥から突き上げるような感動が押し寄せてきた。

猫は後ろを振り返ると、ブランコからの距離を測るように、ブランコと自分の肉球跡を凝視していた。満足したようにくるりと向きを変え、堂々とした足取りで、颯爽と歩いていく。

その姿を憧憬しょうけいのこもったまなざしで見送ったぼくは、ベンチにドサリと腰を落とした。なんだかすごいものを見た。

空を仰ぎ見る。宇宙まで覗けてしまうような、透き通った空が広がっていた。

気合を入れて立ち上がると、学校に向けて歩き出した。脳裏に焼き付いている黒猫のように、堂々と、颯爽とした足取りで。



ブランコに乗っている猫、見たことあります。さすがに漕いではなかったけど。
もしかしたら親分を決めるレースがひっそりと開催されているのかもしれません。

小牧幸助さまの企画 シロクマ文芸部「ブランコに」に参加させていただきました。 よろしくお願いします。


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今まで投稿したショートショートの記事をまとめました。こちらは短くてタイパ抜群かと思われます😆



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