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eGFR低下が示す腎臓からのSOS~その数値、腎臓からの静かなサインかもしれません~

健康診断の結果表、eGFRの欄を見たことがありますか

健康雑誌の編集という仕事をしていると、読者の方から健康診断の結果表を見せていただく機会がとても多いんです。

そういうとき、多くの方がまっすぐ指を置くのは、血圧か、血糖か、コレステロールの欄です。上から順に赤い文字を探して、赤くなければひと安心。そこで結果表を封筒に戻してしまう。

でも私は、結果表を見せてもらうたびに、別の場所を見ています。

血液検査のいちばん下のほう、クレアチニンという項目の隣に、小さく印字されている数字。eGFR

去年は「78」だった。今年は「67」になっている。どちらも赤字ではありません。基準値の欄に何も書かれていないことすらあります。だから、ほとんどの人が気づかないまま通り過ぎていくんです。

けれど、この数字が1年で11下がったという事実は、体からのかなり率直なメッセージです。

腎臓は、痛みで訴えてくることがほとんどありません。だから代わりに、数字で伝えてこようとします。eGFRという欄は、腎臓が使える唯一の声のようなものなんです。

この記事は、その声を聞き取れるようになるための記事です。読み終えるころには、次の健康診断の結果表の見え方が、たぶん少し変わっていると思います。


腎臓が悲鳴を上げても、なぜ誰も気づかないのか

まず、eGFRという言葉そのものを、できるだけ簡単に説明させてください。

eGFRは「推算糸球体濾過量」の略で、腎臓が1分間にどれくらいの血液をきれいにできているかを表した推定値です。血液中のクレアチニン(筋肉から出る老廃物)の量と、年齢、性別から計算されます。

イメージとしては、腎臓というろ過装置の処理能力を、パーセンテージに近い形で表した数値だと思ってください。100に近いほど元気に働いていて、数字が小さいほど処理能力が落ちている。90以上なら十分、60を切った状態が3か月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)という扱いになります。

ここまで読んで、「じゃあ60を切ったら体調が悪くなるはずだ」と思われたかもしれません。

ところが、そうならないところが、この臓器のいちばん厄介なところなんです。

腎臓の中には、ネフロンと呼ばれる極小のろ過ユニットが、左右合わせておよそ200万個入っています。この予備の多さが災いします。一部のネフロンが働けなくなっても、残ったネフロンが仕事量を増やして肩代わりしてしまう。結果、機能が半分近くまで落ちても、日常生活ではほとんど何も感じません。

肝臓が沈黙の臓器と呼ばれるのは有名ですが、腎臓の沈黙はそれ以上かもしれない、と私は思っています。

もうひとつ、気づきにくい理由があります。

腎機能が落ち始めた人が最初に感じる変化は、夜中にトイレへ行く回数が増えた、なんとなく疲れが抜けない、足がむくむ、といったものです。

これ、全部そのまま「歳のせい」で説明がついてしまうんですよね。

50代の男性が夜に2回トイレで起きれば、前立腺かなと考えます。60代の女性の足がむくめば、立ち仕事だから、と片づけられる。私も編集部で何人も見てきましたが、腎臓を疑う人にはまず出会いません。

だから腎臓は、症状ではなく数字で見つけるしかない臓器なんです。

日本腎臓学会によれば、国内の慢性腎臓病の患者数は1300万人を超えると推計されていて、成人のおよそ8人に1人にあたります。それだけの人数がいるのに、自覚している人はごくわずかだそうです。

新たな国民病と呼ばれるゆえんが、ここにあります。


心当たり、いくつありますか

ここからは、腎機能が落ちてきたときに現れやすい変化を挙げていきます。

はっきりお伝えしておくと、これらは腎臓だけに起こるものではありません。他の原因でも起こります。だからこそ、ひとつあるかないかではなく、いくつ重なっているかという見方をしてください。

読みながら、指を折って数えてみてください。

1. 夜中にトイレで起きる回数が増えた

夜間頻尿です。健康な腎臓は、夜のあいだ尿を濃縮して量を減らし、私たちが眠り続けられるようにしています。この濃縮する力は、腎機能の中でも早い段階で衰えるところ。薄い尿がたくさん作られるようになり、夜中に目が覚めます。前立腺や加齢のせいにされやすい変化の代表です。

2. 尿が泡立って、なかなか消えない

ビールの泡のような細かい泡が、流すまで残る。これは尿にたんぱくが漏れているサインのことがあります。腎臓のフィルターは本来、体に必要なたんぱく質を通さない構造なんですが、フィルターが傷むと網目が粗くなり、漏れ出してしまう。勢いよく排尿したときの泡はすぐ消えるので、区別の目安は「消えるまでの時間」です。

3. すねを押すと、指の跡がしばらく残る

むくみですね。腎臓は体の水分と塩分の量を調節する係でもあります。その調節が追いつかなくなると、余った水分が重力に従って足元にたまります。夕方に靴下のゴム跡がくっきり残るようになった、というのも同じ話です。

4. 疲れやすくなり、階段で息切れするようになった

意外に思われるかもしれませんが、腎臓は赤血球を作るよう骨髄に指示を出すホルモン(エリスロポエチン)を分泌しています。腎機能が落ちるとこの指示が弱まり、貧血になる。腎性貧血といいます。鉄剤を飲んでも改善しない貧血の裏に、これが隠れていることも。

5. 血圧が以前より高くなってきた

腎臓と血圧は、お互いに影響し合う関係です。腎臓が血圧を上げるホルモンを出す一方で、高い血圧は腎臓の細い血管を傷めます。降圧薬を飲んでいるのに最近効きが悪い、という変化は、なかなか重要なサインだと思います。

6. 朝、まぶたが腫れぼったい

まぶたの皮膚はとても薄く、水分がたまると目立ちます。寝ているあいだは体が水平なので、水分が顔に移動する。朝いちばんの顔のむくみは、足のむくみより早く出ることもあるんです。

7. 食欲が落ちて、味の好みが変わった

老廃物がうまく捨てられずに体内に残ると、食欲が落ちたり、口の中に金属のような味を感じたりします。肉や魚が急においしく感じなくなった、という訴えを聞くことがあります。

8. 皮膚がかゆい

乾燥のせいだと思われがちですが、保湿しても引かないかゆみが続くとき、体にたまったリンや老廃物が関係していることがあります。夜、布団に入ってからかゆくなるのが特徴的です。

9. 足がつりやすくなった、こむら返りが増えた

腎臓はカルシウム、カリウム、マグネシウムといったミネラルのバランスも管理しています。この調整が乱れると、筋肉が異常に収縮しやすくなります。運動量が変わっていないのにこむら返りが増えたなら、少し気にしてほしいところ。

10. 数日単位で体重が急に増えた

脂肪は数日では増えません。3日で2キロ増えたなら、その正体はほぼ水分です。むくみを体重計で拾っている状態ですね。

11. 尿の量が減った、または色が濃い日が続く

水分をとっているのに尿量が少ない。あるいは、赤みや茶色っぽさが混じる。血尿は痛みを伴わないことも多く、痛くないから大丈夫とは言えません。

12. 寝つきが悪く、眠りが浅い

腎機能の低下と睡眠障害には関連があることが知られています。むずむず脚症候群のような、脚の不快感で眠れない訴えも出てきます。

13. 頭がぼんやりして、集中が続かない

老廃物が脳に影響して、思考のキレが落ちることがあります。本人は年齢のせいだと感じていることがほとんどです。


チェックの数が意味すること

数えた指の数を、ここで確認してみてください。

繰り返しますが、これは診断ではありません。医師が行う診断は、血液検査と尿検査、そして必要に応じた画像検査を組み合わせて初めて成り立ちます。この記事のチェックは、あくまで「病院に行く優先順位を決めるための目安」です。

0〜3個の方

いまのところ、大きく心配する材料はなさそうです。ただ、腎臓は症状が出ないまま進むのが常なので、油断はしないでください。次の健康診断で、eGFRと尿たんぱくの欄だけは必ず確認する。それをこの記事の宿題にしてもらえたらと思います。

4〜7個の方

体がいくつかの方向から同じことを言い始めている状態です。この記事の後半にある予防法から、続けられそうなものを2つ3つ選んで始めてください。そのうえで、次の健康診断を待たず、結果表の過去2〜3年分を引っ張り出して、eGFRの推移を並べてみてほしい。下がり続けているようなら、内科で相談する価値があります。

8個以上の方

不安を煽りたいわけではありません。ただ、これだけ重なっているなら、原因が腎臓であってもなくても、一度きちんと調べたほうがいい状態だと思います。

受診するときは、内科でかまいません。血液検査でクレアチニンとeGFR、そして尿検査で尿たんぱくを調べてほしい、と伝えれば話が早く進みます。過去の健康診断の結果表を持っていくと、医師はとても喜びます。数字そのものより、変化の向きが知りたいからです。


腎臓を弱らせている本当の犯人

ここからが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

腎臓が悪くなる原因を尋ねると、たいていの方が、お酒でしょうか、水分不足でしょうか、と答えます。塩分、と答える方も多い。塩分はたしかに関係しますが、実は主犯ではありません。

日本で新たに透析を始める人の原因を集計すると、第1位は糖尿病性腎症、第2位は腎硬化症です。腎硬化症というのは、要するに高血圧によって腎臓の血管が硬くなった状態を指します。

つまり、腎臓をいちばん壊しているのは、糖尿病と高血圧なんです。

なぜそうなるのか。ここに、腎臓という臓器の正体があります。

腎臓のろ過装置、糸球体と呼ばれる部分は、極細の毛細血管が毛糸玉のように丸まってできています。腎臓は、臓器というより血管の塊だと言ったほうが実態に近い。ネフロン200万個ぶんの毛細血管を全部つなげると、相当な長さになります。

そして高血糖は血管の内側を傷つけ、高血圧は細い血管に絶えず圧をかけ続けます。全身のどこよりも細い血管が密集した場所に、その負担が集中する。

だから、こう言い換えられます。

腎臓病は、腎臓という臓器の病気である前に、血管の病気なんです。

私はこの構造を知ったとき、腎臓に対する見方が変わりました。腎臓をいたわるというのは、腎臓に良いものを食べることではなく、全身の血管を守ることだったのか、と。

もうひとつ、見落とされがちな要因があります。市販の鎮痛薬です。

腰痛や頭痛で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を何年も常用している方は少なくありません。これらの薬は腎臓の血流を減らす作用があり、長く飲み続けることで腎機能に負担をかけることが知られています。薬局で買えるものだから安全、というわけではないんですね。

そこに、夏場の脱水や、自己流のサプリメント、プロテインの過剰摂取が重なる。腎臓は、こうして静かに削られていきます。


そのまま放っておくと、体はどう変わるか

正直にお話しします。ただ、必要以上に怖がらせるつもりはありません。

腎機能が落ち続けたとき、行き着く先のひとつが透析です。日本にはおよそ35万人の透析患者さんがいて、多くの方が週3回、1回4時間ほどの治療を続けています。生活への影響は小さくありません。

ただ、eGFRが70台の方にいきなり透析の話をするのは、あまりフェアではないと思っています。そこに至るには通常、何年、何十年という時間がかかりますから。

それより、もっと手前で、もっと多くの人に関係する話をさせてください。

慢性腎臓病がある人は、心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが明確に高くなります

これは近年、とくに重視されるようになった点です。腎機能の低下した人が透析に至る確率より、その前に心血管の病気で亡くなる確率のほうが高い、という報告すらあります。

理由は、先ほどの話とつながっています。腎臓の血管が傷んでいるということは、心臓や脳の血管にも同じことが起きている可能性が高い。eGFRの低下は、腎臓だけの通知ではなく、全身の血管からの通知なんです。

心臓と腎臓が互いに影響し合うこの関係を、医療の世界では心腎連関と呼んでいます。

そのほかにも、貧血で疲れやすくなったり、骨がもろくなって骨折しやすくなったり、薬が体に残りやすくなって効きすぎたりします。腎臓が弱るというのは、体のあちこちの設定がじわじわ狂っていくことでもあるんですね。

ここまで読んで、少し重たい気持ちになった方もいるかもしれません。

でも、この記事のいちばん大事なところは、次の章です。


腎臓は、まだ待っていてくれる

腎臓について、ひとつ誤解されやすい点があります。

一度失われたネフロンは戻りません。それは事実です。ただし、それは「何をしても無駄」という意味ではまったくないんです。

大事なのは、残っている機能を守れるかどうか、そして低下のスピードを緩められるかどうか。ここには、いまからでも十分に手が届きます。

eGFRは、何もしなくても加齢とともに年に0.5から1程度ずつ、ゆるやかに下がっていきます。これは自然な変化です。問題になるのは、年に3も4も5も下がっていくような、急な下り坂のほう。

この下り坂の角度は、血圧と血糖を整えることで、はっきりと緩やかになることがわかっています。腎機能の低下速度を半分近くまで抑えられたという報告も出ています。

角度が変われば、到達する地点が変わります。

いま65歳でeGFRが60の方が、年5ずつ下がれば10年ちょっとで厳しい領域に入ります。でも年1に抑えられたなら、生涯にわたって困らない計算になる。同じ数字から出発しても、行き先はまったく違うんです。

しかも、ここが少し嬉しいところなんですが、腎臓を守る方法は、心臓を守る方法や脳を守る方法とほとんど同じです。血管を守るという一点で、全部つながっている。

つまり、これから紹介する習慣は、腎臓のためだけの努力にはなりません。


今日から始める、腎臓をいたわる9つの習慣

順番に紹介していきますが、全部やろうとしないでください。私の経験上、9つ全部に手をつけた人は、たいてい2週間で全部やめてしまいます。

続く人は、いつも2つか3つから始めています。

1. 家庭で血圧を測り、上130・下80を意識する

腎臓を守るうえで、これが最も効果の大きい習慣です。病院で測る血圧は緊張で上がりやすいので、家庭で測った数値のほうが実態に近い。朝起きてトイレを済ませたあと、座って1分休んでから測る。それを続けるだけで、自分の本当の血圧が見えてきます。

続けるコツは、血圧計を洗面所や食卓など、毎朝必ず通る場所に出しっぱなしにしておくことです。引き出しにしまった瞬間、測らなくなりますから。

2. 減塩は、まず汁物と麺類の汁から

1日6グラム未満が目標とされていますが、これを毎食計算しようとすると挫折します。狙いを絞りましょう。日本人の塩分摂取で大きな割合を占めるのは、味噌汁、ラーメンやうどんのつゆ、漬物です。

ラーメンの汁を半分残す。それだけで2〜3グラム減ることも珍しくありません。味噌汁は1日2杯を1杯にする。この2つだけで、目標にかなり近づきます。

薄味に慣れるまではだいたい2週間くらいかかると言われていて、そこを越えると、以前の味付けが濃く感じられるようになります。

3. 血糖の急上昇を作らない食べ方をする

糖尿病がある方はもちろん、HbA1cが5.6〜6.4あたりの予備軍の方も対象です。野菜やたんぱく質を先に食べて、炭水化物を後にする。早食いをやめる。夜遅い時間の主食を減らす。

食後に15分だけ歩くのも効果的で、これは血糖のピークを削ってくれます。夕食後の食器を片づけたら、そのまま近所を一周する。習慣にしてしまえば、意志の力はほとんど要りません。

4. 市販の鎮痛薬を、漫然と飲み続けない

痛いときに飲むことを否定したいわけではありません。問題になるのは、月に何十錠も、何年も飲み続けているケースです。

もし腰痛や頭痛で常用が続いているなら、一度かかりつけ医に相談してください。腎臓に負担の少ない選択肢や、痛みの原因そのものへのアプローチが見つかることもあります。

5. 脱水を作らない。ただし、飲みすぎない

腎臓は血液をろ過する臓器なので、血液量が減ると仕事ができません。夏場や入浴後、睡眠中は脱水が起こりやすい時間帯です。起きがけにコップ1杯、入浴前後に1杯。この習慣は取り入れやすいと思います。

一方で、水をたくさん飲めば腎臓が洗われる、という考え方には根拠がありません。心臓や腎臓の病気で水分制限を受けている方もいますから、極端はどちらの方向にも避けてください。

6. たんぱく質は、自己判断で極端に動かさない

ここは誤解が多いところです。腎機能が落ちた方にはたんぱく質の制限が指導されることがありますが、これは医師や管理栄養士のもとで行うもの。自己流でたんぱく質を減らすと、筋肉が落ちてフレイルに向かってしまい、かえって寿命を縮めかねません。

逆方向も同じで、健康のためにと大量のプロテインを毎日飲むのは、腎臓に余分な仕事をさせることになります。極端に走らない、が答えです。

7. たばこをやめる

喫煙は腎臓の細い血管を直接傷めますし、腎機能の低下スピードを速めることがはっきりしています。腎臓の話に限らず、最も費用対効果の高い健康投資はこれだと思っています。

いまは禁煙外来という選択肢もあります。意志の問題として一人で抱え込む必要はありません。

8. 週に150分の早歩きと、体重をあと3%

有酸素運動は血圧と血糖の両方を改善します。1日30分を週5日、あるいは20分を毎日。息が少し弾む程度の早歩きで十分です。

体重については、いきなり標準体重を目指さないでください。現在の体重の3%、70キロの方なら2キロほど減らすだけで、血圧や血糖の数値が動き始めます。達成できる目標を置くことが、結局いちばんの近道でした。

9. 年に1回、血液と尿を「セットで」調べ、去年と並べる

これが最後で、いちばん大事かもしれません。

eGFRだけを見ていると、初期の異常を見逃すことがあります。というのも、腎臓の障害はしばしば尿たんぱくのほうが先に出るからです。血液検査と尿検査、この2つはセットで意味を持ちます。

そして、結果表は捨てないでください。1年分の数字は点ですが、3年分並べると線になります。医師が本当に見たいのはその線のほうなんです。スマートフォンで撮影して、健康診断という名前のアルバムに入れておくだけでかまいません。


研究の現場では、いま何がわかってきたのか

この数年、腎臓を取り巻く状況はかなり大きく変わりました。

長いあいだ、慢性腎臓病には進行を止める有効な薬がなく、血圧を下げて食事に気をつけながら、進行を見守るしかない時期が続いていたそうです。

その流れを変えたのが、SGLT2阻害薬という薬でした。

もともとは糖尿病の治療薬として、尿に糖を出すことで血糖を下げる目的で使われていたものです。ところが臨床試験を進めるうちに、腎機能の低下を抑える効果が繰り返し確認されました。

2020年に報告されたDAPA-CKD試験では、慢性腎臓病の患者さんを対象に、腎機能の悪化や透析への移行、死亡といった出来事が有意に減少しています。注目されたのは、糖尿病がない患者さんでも同じように効果が見られた点でした。

2023年に発表されたEMPA-KIDNEY試験も、幅広い患者層で同じ方向の結果を示しています。腎臓病の治療が、守りから攻めに変わった、と表現する医師もいるほどです。

さらに、フィネレノンという別の作用を持つ薬でも、糖尿病を伴う慢性腎臓病における腎機能低下の抑制が報告されました。組み合わせて使う戦略の研究も進んでいます。

診療の指針そのものも更新されています。KDIGOという国際的な組織が2024年に改訂したガイドラインでは、eGFRと尿中アルブミンの両方を使ってリスクを評価し、早い段階から介入する考え方がより明確になりました。日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン2023も、同じ方向を向いています。

こうした話を読むと、薬さえあれば大丈夫だと感じてしまうかもしれません。

でも、ここには前提があります。これらの薬が力を発揮するのは、病気が見つかっている場合だけなんです。

検査を受けていなければ、どれだけ優れた治療が登場しても、その人には届きません。研究が進めば進むほど、年に一度の健康診断の価値が上がっている。私はそう受け止めています。


おわりに ー 数値は、未来を変えるための地図

腎臓は、痛みで訴えることをしません。

その代わりに、健康診断の結果表の片隅で、小さな数字として毎年きちんと報告を上げてくれています。eGFRという欄は、そういう場所です。

そして、この数字のいいところは、未来を教えてくれるという点にあります。血圧やコレステロールと同じで、症状が出るずっと前から変化が始まる。だから、こちらにも準備する時間が与えられます。

今日お伝えした習慣は、どれも劇的なものではありません。血圧を測る、汁を残す、食後に少し歩く。地味です。

でも腎臓を守るというのは、そういう地味なことの積み重ねなんです。そして、その積み重ねは同時に、心臓と脳と血管を守ることでもあります。ひとつの努力が、いくつもの場所に届く。

最後にひとつだけ。

まずは、いちばん新しい健康診断の結果表を引っ張り出して、eGFRの欄を探すところから始めてみましょう。

数字がわかれば、次にやることは自然と見えてきます。


参考文献

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