-第3話: 駅に降りた瞬間の風と、迷わない動線。
サフィール踊り子のドアが開いた。
風が、少しだけ車内に入り込んでくる。
潮の匂いが混ざっている。
ホームに降りた瞬間、
空気の湿度が、わずかに変わった。
あ、ここに来たんだ。
頭より先に、身体がそう理解している。
ホームを歩き出すとき、ほとんど考えていない。
どの階段を降りるか。
どの改札を抜けるか。
身体が、勝手に選んでいる。
何度か来たことがある場所だからこそ、
考えないで歩ける。
スマホも見ない。
地図も開かない。
足が、勝手に進んでいく。
改札を抜けて、駅前のロータリーに出る。
タクシー乗り場が正面にある。
左に商店街の入口が見える。
迷わない。
身体が覚えている道を、
そのまま歩いている。
海へ向かう道に入る。
坂を少しだけ下りていくと、
潮の匂いが濃くなってくる。
あと数分で、目的地に着く。
でも、その手前で、少しだけ歩くのが遅くなる。
まだ着いていない、この手前の時間が好きだった。
旅の本番は、
案外「どこかに向かっている途中」にあるのかもしれない。
サフィールを降りてからの数分が、
いちばん静かに、旅を始めさせてくれる。
次の旅も、同じホームに降りて、
同じ道を、考えないで歩いていく。
それだけのことが、旅の静けさになる。
※ サフィール踊り子の座席選びや、東京駅での“仕込み”の動線など、実用ガイドはブログにまとめています。
