5年前に描いたファンアートが、映画ポスターの仕事に繋がった話
イラストレーターを始めて15年。
いろんな仕事を経験させていただきましたが、「これは一生無理かもしれない」と、もはやその夢すら忘れかけていた仕事が、ひとつだけありました。
それが、実写映画のポスターです。
そして2025年春。まさかのメールが届きました。忘れかけていたその夢が、5年越しで現実になったのです。きっかけは、あの1枚のファンアートでした。
いつかやりたかったお仕事
イラストレーターを始めた時、将来的にこれはやりたいと考えていたクライアントワークがいくつかありました。本や、CM、企業のキャラクター、などなどです。おかげさまで、大体は経験させていただきました。
しかし、その中でもこれはやってみたいけど、かなり難易度高めだなと思っていたクライアントワークがあります。
実写映画のポスターです。
私は、子供の頃から映画が好きで、映画好きが高じて大学は映画学科に進学し、そこから映像制作会社に就職した人間です。そこから、どういうわけかイラストレーターになってしまいましたが、絵を描けて映画が好きな人間が、いつかは映画のポスターを描きたいと思うのは、自然な流れかもしれません。
しかし、です。
映画のポスターを描くのは非常に難易度が高い
技術的に、難しいという話ではないです。
(まぁ、それもゼロではないですが。)
そもそも、イラストレーターが映画ポスターのイラストを手掛ける仕事は、全体の仕事量としては、出版やその他の仕事と比較すれば、かなり少ない傾向にあります。この仕事を請け負うのは、超狭き門です。理由を、以下にまとめました。
理由1:映画ポスターの制作頻度
映画ポスターの需要は、公開される映画の本数に依存しますが、年間で公開される映画の数は日本だと数百本程度(大作からインディーズまで含む)です。その中でイラストを使用するポスターはかなり限られます。イラストレーターが関われるのは以下のような限定的なケースです。
アート系・ミニシアター系の映画
昭和・レトロ風のリバイバル上映
DVD/Blu-rayジャケット用の描き下ろし
海外映画の「日本版オリジナルアートポスター」
ファンアート系企画や限定グッズ
理由2:イラスト採用の割合
実写映画の映画ポスターは、写真やCGを多用する傾向が強く、日本でも海外でも最近の主流は「写真+デザイン」です。ビジュアルの統一性やマーケティング戦略上、「写真」が求められる場面が多く、イラストがメインになるケースはアート系の映画、アニメ映画、特定のコンセプトを強調したい場合などに絞られます。
理由3:専門性の高さ
映画ポスターのイラストは、商業的訴求力やブランディングが求められるため、高いスキルと実績を持つイラストレーターに依頼が集中します。そのため、よっぽど訴求力のあるイラストレーターでなければこの分野で仕事を得る機会は少ないと言えます。
理由4:予算の問題
海外と同じ写真+デザイン、ありもの素材を使うのに比べ、新規のイラストやデザインは、制作コストがかかってしまいます。海外の写真やデザインがよっぽど日本人に趣向に合わないと判断されない限り、配給さんもわざわざ予算は割きたくないでしょう。
ツラツラ書きましたが、とどのつまりは「映画ポスターを描く」というのは、めちゃくちゃニッチな上に、描く人間はそれなりに売れてないと難しいということです。
などなどの理由から、イラストを主体とした映画ポスターはあまり見かけません。
イラスト系映画ポスターの例
それでも、イラスト系映画ポスターがないわけではありません。近年の作品で、印象に残っているポスターがこちらです。映画の認知度自体が高いので、映画好きの方は覚えているのではないでしょうか。
🌺🌸🐻🌼🌺🌼#ミッドサマー こんにちは
— 『ミッドサマー』公式🌻💐☀️ (@midsommarjp) January 28, 2020
🌺🌸🌺🌼 🌺🌼
本作の日本限定のアートポスター2種類が完成いたしました。
こちらは画家のヒグチユウコさんによるものです。 pic.twitter.com/q4M7RpyEnI
A24製作のホラー映画。アリ・アスター監督の『ミッドサマー』のポスターです。写真を使用した通常盤のポスターとは別に、アート版として作成されたもので、ヒグチユウコさんが描かれたイラストが非常に印象的です。大変話題になりました。私も、一枚欲しい!
また、このように実写に近いイラストのパターンもあります。こちらは、もうアート版ということではなく写真を使用したポスターと同じ立ち位置で作成されています。
Netflix映画『新幹線大爆破』キーアート発表!
— Netflix Japan | ネットフリックス (@NetflixJP) April 1, 2025
「ストレンジャー・シングス」、実写版「ONE PIECE」シリーズなども手掛けたカイル・ランバートによる、日本映像作品初のアート。
昭和時代の手書き看板を彷彿とさせる味わい深い仕上がり。#新幹線大爆破 #走り続けろ #BulletTrainExplosion#草彅剛 pic.twitter.com/p9Z7iPLYH0
また、リアル系で言えばサイトウユウスケさんの『歓喜の歌』
Rockin'Jelly Beanさんが描かれた『デッド・ドント・ダイ』のポスターなどが上げられます。
/
— 映画『デッド・ドント・ダイ』公式🧟♀️BD&DVD好評発売中❗️ (@deaddontdiejp) May 30, 2020
『#デッドドントダイ 』
祝💥6/5(金)💥公開決定
プレゼント企画‼️
\#ジム・ジャームッシュ 監督#アダム・ドライバー も絶賛🙌
公式第2弾ポスター(Rockin'Jelly Beanさん画)が✨50名様✨に当たる🎁🧟♂️
【フォロー&RT】で応募完了
〆6/14 当選はDMで#映画館での映画始めはデッドドントダイ pic.twitter.com/OltYFYJZ9C
『キングコング 髑髏島の巨神』のポスターなどに至っては、むしろハリウッド版より、イラストで描かれた日本版の方が集客には効果的だったと言えるのではないでしょうか。

ただ、上にあげたようなリアルタッチは私には描けませんし、それこそもっとうまい人がゴロゴロいます。
狭き門すぎてやりたい気持ちすら忘れた
というわけで、映画ポスターをイラストでやるのはなんやかんや非常にハードルが高いのです。もう正直、やりたいという気持ちすら忘れていました。
そんな、2025年4月です。あるデザイナーさんからメールが来ました。
今回お願いしたい作品は
『ユニバーサル・ランゲージ』
という作品になりまして、
こちらのティザービジュアルをお願いできたらと思っております。
先方よりイラストでキービジュアルを作成したいとリクエストがあり、
勝手ながらウラケン・ボルボックスのイラストをお見せした所、
すごく気に入られて、ぜひ!お願いしてくださいとのことでしたので、
お声がけさせて頂きました。
こ、こ、これは…
映画のポスターのご依頼では??!!
映画ポスターの依頼が来た
そうです。映画のポスターイラストのご依頼です。イラストのタッチは、2020年のコロナ禍に病床で観て、あまりの良さにファンアートを描きまくった『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』のタッチをご所望とのこと。

しかも、この依頼を持ってきてくれたデザイナーは、『あちこちオードリー』のDVDパッケージイラストのご依頼をテレビ東京さんからいただいた際、どなたかデザイナーさんを入れてくださいとお願いした時に入っていただいたデザイナーさんです。
つまりこういう流れです。
2020年
『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』を観る
↓
ファンアートを描く
↓
ファンアートが佐久間Pの目に入る
↓
2021年
『あちこちオードリー』の仕事がきてデザイナーさんと知り合う
↓
2025年
デザイナーさんが映画の配給会社にウラケンを紹介する
つながったあああああ!
映画のファンアートが、
5年越しで映画のポスターの仕事に
つながったあああああ!
しかも、資料として添付されていた仮のキービジュアルが、もう完全に私が5年前に描いたイラストをそのまま実写にしたかのようなイメージ!

逆に言えば、実写の方が私のイラストに寄せにいってると言ってもいいくらい、実写とイラストの親和性が高すぎる!
『ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから』もそうですが、何故か私は、人物が真横を向いて立っていたり、歩いていたりする全身像が絵になる映画に惹きつけられ、描きたくなる傾向があります。
正直別件もいくつか重なってて、スケジュール的にややきつい印象だし、最近はもうバリバリにアウトラインを引いた絵ばかり描いていて、自分の描きたいタッチ見つけたー!もうアウトラインなしは得意な人やってー!とか考えていましたが、これはやらないわけにはいきません。
映画ポスター解禁
『ユニバーサル・ランゲージ』
【ストーリー】
舞台はペルシャ語とフランス語が公用語になった、“もしも”のカナダ・ウィニペグ。暴れまわる七面鳥にメガネを奪われたオミッドは、学校の先生に黒板の字を読めるようになるまで授業を受けさせないと理不尽に怒られてしまう。それに同情したネギンとナズゴルは凍った湖の中に大金を見つけ、そのお金で新しいメガネを買ってあげようと思いつくのだった。
2人はお金を取り出すために大人たちにアドバイスを求めるが、街に住んでいるのはみんなちょっとヘンテコな人たちでなかなか思うようにいかない。そこに、廃墟を観光スポットとして紹介する奇妙なツアーガイドのマスードや、仕事に嫌気が差して自暴自棄になったマシューまで絡んできたからさあ大変!はたしてネギンとナズゴルは無事にオミッドにメガネを買ってあげられるのだろうか?
映画の絵作りが、絵本のような画面構成になっていて、非常にイラストのイメージと調和しやすいのが幸いでした。特に、登場人物が画面を真横に進むカットが多いのが良かったです。
映画を観た上で、全5段のイラストを完成させました。その上で、デザイナーの方に全体を整えていただいたポスターがこちらです。

めっちゃ可愛くないですか?
『#ユニバーサル・ランゲージ』
— 映画『ユニバーサル・ランゲージ』公式 (@ulmovie2025) June 2, 2025
🎬️8.29 fri 日本公開決定!
🪞もしも、カナダの公用語が
「ペルシャ語とフランス語」だったら?
ちょっとズレた人々が織りなす、
すれ違いのファンタジー。
🔗https://t.co/3sESxuGCZN pic.twitter.com/B6mY9jlmK4
予告も解禁されました。
「お姉ちゃん!一大事だよ!」
— 映画『ユニバーサル・ランゲージ』公式 (@ulmovie2025) June 2, 2025
メガネを奪われた少年を助けるため、
姉妹の“ちょっとズレた”冒険が始まる──🦃❄️
🌍世界100以上の映画祭を席巻
〝 あなたも、誰かに
きっとやさしくなれる。 〟
『#ユニバーサル・ランゲージ』
🗓️ 8月29日[金]公開 pic.twitter.com/jw22H8sl0P
今年8月29日公開なので、今後映画館にチラシが並んだり、ポスターが貼られるようになります。
映画の魅力を伝えようとファンアートを描いたら、グルっと回って、5年後に映画のポスターにまで辿りついてしまいました。まさに、「面白いのはこれから」な出来事でした。
夢が向こうから寄ってきた
あぁ、こういうものが描けたらいいなと考えた場合、あらかじめ描いておくと、実際にその絵に近い企画が発生した際に、今回のようにニーズがピシャッと噛み合うことがあります。
まるで、夢が自分から寄ってきたような感覚です。今回の件は、かなりニッチな例ですが、他の仕事の多くもそうではないでしょうか。もし、こういう仕事をやりたいな、描きたいなとお考えの方。今のうちに作ってください。描いてください。
そのうち、夢の方からドアを叩きにくるかもしれません。
それでは、読んでいただきありがとうございました。

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