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未知という自分の「影」を飲む

もうみんな知っていると思うけど、まだ私は知らないものがある。

それがコーヒーだ。

好きって言うのも気が引ける。

私はコーヒーのことを何も知らなくて、
コーヒーは私のことを全部知っている。

私はいかなる「その道」のプロでもない。
趣味として嗜む者の中でも、どうだろう。

LEAVES COFFEE ROASTERSの
PANAMAの豆なんてまだ手が出ないし、
ETHICUS 58 DRIPPERだって持ってないし、
LAGOMのラの字も出揃わない様は、
我が家へ来たる豆に懺悔の涙を禁じ得ない。

私なんてまだ入り口も軒先、
足踏み込みかけで飲むだけ飲んでいる。

私からは愛したい時に愛したいように飲み干して、
相手には伴侶のごとく寄り添って「もらって」いる。

あの赤く澄んで影差した液体が背中を通る瞬間に、
生きたこれまでの蠢くすべてを感じている。

私の唇、視界の先で動く指、見えないけどここにある腹の中。

影のごとくにピタリ添って、何も言わずに見透かされている。

誰しもが通り過ぎる景色、聞き流す街の喧騒。

あの一杯を口にすれば、
その裏側の叫びが鼓膜の内に叩きつけてくる。


「これ以上コーヒーを飲まなかったら、
コーヒーを飲んでいる人のことを嫌いになりそうだ」

あらぬ焦燥感で購入した、一つのよくあるコーヒー。

淹れ方なんて知らなくて、5分もかけてケトルを回した。

あぁ、でもこれ、うまいなぁ。

ざわつきながら流し込んだ一杯は、
あやふやだった快と不快の境界を鮮やかに切り分けた。

はじめて自分の感情の網膜に、
ピントが合ってアンテナが張り巡らされた。

私はこれを求めていたんだ。

そんな言葉さえ浮かばなかったけど、
家族が帰ってきてからの一杯は私たちの日課になった。


本能のままに、手を伸ばした各国の豆と抽出器具。

国や地域の豆ごとに、感じる「形」が全然違う。
私は自分が共感覚者だったことを知る。

入り込んでくる線と色、図形。
飛び込んでくるイメージと音。

昨日の自分の影がどこか、投影されているようなのに、
まったく新しい世界を見せられている気分だ。

この豆は、斜めの上辺を持った台形。
この国は上昇気流に乗った花束だ。

香りは見えないからこそ、
無限の彩りを見せ、
私の視界をどこへでも連れて行った。


世界中を旅させてくれるのに、
いつでも「もっと」自分の内側に還ってくる。

この一杯、その一口。
飲み進めるごとに、
知らなかった世界の裏側から、
明日の背から自分が「ただいま」と声を上げる。

なんだろう、この感覚は。

私は自分の「影」を見ている?

感極まった情景が見せる線と形は、
すべて自分の中で影と調和し、

未知のもののはずなのに、
ひどく懐かしい面影でやって来る。


まだ知らなかった初恋の相手を、
振り向かせたい時はありますか。

そんな時私は、この影を飲んでいる。


今回、無職さんの「お前の偏愛を語れ」
コンテストに参加させていただきました。

楽しい機会を設けてくださり、誠に感謝いたします。

たくさんの記事があるにも関わらず
私の記事をも読んでくださる無職さん、
これをきっかけに読んでくださった方、

心よりお礼申し上げます。



貴重なお時間を割いていただき、心から感謝いたします。
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よろしければご覧ください。



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