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会話中、歯笛鳴らすやつ

青森にいると、みんな方言が強い。

南部弁なんか聞いてると、

「今の、“し”なの? “す”なの?」

みたいな、五十音表では処理できない謎の音が普通に出てくる。

で、それを聞いていて気づいた。

あれ? 俺もやってるわ。

東京生まれ東京育ちの俺は、ずっと標準語話者のつもりだった。

でも実際には、

「ひだり」が「しだり」っぽくなったり、

「まっすぐ」が「まっつぐ」っぽくなったりする。

ただ、これは「ひ」を「し」と言い間違えてるわけじゃない。

俺の感覚では、そもそも発音の作り方が違う。

「ひ」とか「す」を言うとき、舌が軽くU字になる。

そのU字の溝に空気を通して、前歯の方へシュッと抜く。

すると、

ひでもない、しでもない。
すでもない、つでもない。

五十音の境界みたいな音が出る。

そして問題はここからである。

その細い空気の流れが、たまに前歯の隙間へ完璧な角度で入る。

すると突然、

スィィィィーーー。

鳴る。

誰だ今笛吹いたの。

俺だ。しゃべってただけだ。

これ、昔の東京のジジイにも結構いた気がする。

子供の頃、その辺にいたチャキチャキのジジイが、

上裸、股引き、草履。

道路端でサンマ焼きながら酒飲んで、

「あすこをまっつぐ行ってよォ……スィィッ……しだりだよ」

とかやってた。

当時の俺は特に疑問を持たなかった。

ジジイとは、たまに鳴る生き物だと思っていた。

そこで俺は一つの仮説を立てた。

話してる途中で歯笛が鳴るやつ、大体江戸っ子説。

江戸・東京系の発音は、口の前の方で細く空気を操る。

その結果、

言葉

摩擦音

前歯にクリティカルヒット



という謎の進化が起きる。

青森には「し」と「す」の間の音がある。

東京には「ひ」と「し」の間みたいな音がある。

そして江戸っ子には、そのさらに先に、

音階がある。

……と思ったのだが。

ここで重大な反証が見つかった。

歯である。

世の中には、

奥歯死亡。

「まあいいか」で放置。

噛み合わせ魔改造。

歯が移動。

前歯付近に謎の空気ルート開通。

という、歯科医が見たら頭を抱えそうな進化を遂げたオッサンも多数存在する。

そうなると、

「すみません、それなんですけど……スィィィィーー」

となる可能性がある。

この場合、江戸っ子でも何でもない。

ただの歯科案件である。

つまり、

会話中に笛が鳴る

江戸っ子だ!

と即断するのは危険。

正しくは、

江戸系発音なのか、歯列崩壊なのか、音だけでは判別不能。

場合によっては両方を搭載したハイブリッド型もいる。

江戸弁ネイティブ。
奥歯欠損。
前歯隙間あり。

ここまで揃うともう、

しゃべるたびにフルートソロである。

ベト7の第一楽章を思い出す。

俺も47年間、標準語を話してるつもりだった。

違った。

たまに江戸弁で、

たまに管楽器で、

将来的には歯科案件になる可能性もある。

人間、歳を取るほど会話の情報量が増えていく。

最終的には、

言葉・方言・歯並び・笛

この4つを同時に聞き分けなければならない。

だから今後、話してる途中で

スィィィィーー

って鳴るオッサンに出会っても笑ってはいけない。

その人は江戸の文化を継承しているのかもしれない。

あるいは、単に奥歯が死んでいる救急歯科案件か。

.....自分でも何言ってるか、よく分からんくなってきた。

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