豚骨スープから始まった、俺とクマの頂点決定戦(デスゲーム)
### 第一章:バケツの中の「アイツ」との遭遇
それは、よく晴れた日の昼下がりのことだった。
お腹を空かせた俺(61歳、元本物の技術者、現嘱託、趣味は水泳と油絵)は、近所の本格派ラーメン店の前で足を止めた。店先には、仕込み用だろうか、バケツの中に白い骨が豪快に放り込まれている。
「……ん? あれ、頭の骨じゃね?」
そこにあったのは、まごうことなき豚の「頭骨」だった。形がリアルに残っている。そのとき、技術者としての俺の脳細胞が、恐るべき疑問を弾き出した。
『ちょっと待て。あの頭の形が残っているということは、中に「脳みそ」が入ったまま煮込んでいるんじゃないか? 業者さんがスプーンでわざわざ掻き出すの、絶対めんどくさいもんな……』
あのクリーミーなスープのコク。まさか、豚のブレイン(脳)が出汁の正体なのか?
恐怖に震えながらAIに問い詰めると、AIは「真っ二つにして水圧でブッ飛ばしてるから中身は空っぽですよ!」と爽やかに教えてくれた。なんだ、もぬけの殻か。胸をなでおろした俺だったが、一度火がついた「食への危機管理センサー」は止まらなかった。
「待てよ。昔、牛でBSE問題があったよな。脳みそがヤバいやつ。……じゃあ、スーパーで売ってるアメリカ産の牛肉は本当に大丈夫なのか?」
話は豚骨から一瞬で太平洋を渡り、アメリカの広大な牛舎へと飛んだ。AIは必死に「今の米国産は危険部位を完全除去してるから超安全です!」と科学的データを並べ立てる。頭ではわかった。科学的には100%安全だ。しかし、当時のニュースのインパクトが強すぎて、俺の右手はスーパーの棚の前でどうしても躊躇してしまう。わかっていても、なお。
こうして俺は、食の安全という深い迷宮に迷い込んでいったのだ。
### 第二章:森のグルメ王と、ジューシーなビールっ腹
食の安全について考えているうちに、俺の思考はさらなる野生の深淵へと潜っていった。
近頃、ニュースを騒がせている「クマの出没」である。
「なあ、クマにとって人間って美味しいのかな?」
何気ない俺の質問に、AIが真面目な顔で答える。
「クマは効率よくカロリーが取れる『脂』が大好物です。もし人間の味を覚えたら『簡単に手に入るハイカロリーなエサ』だと認識してしまいます」
……脂が大好物。
その瞬間、俺の脳裏にひとつのビジョンが浮かんだ。
『ということは、だ。ビールっ腹の比較的若いヤツが襲われたら、クマは「うわ、これサシ(脂)が乗っててジューシーで最高じゃん!松阪牛かよ!」って大喜びするんじゃないか? 逆に、俺みたいなじいさんの肉だったら、筋っぽくてマズイから「ぺっ!」って吐き出してくれる可能性もあるのか?』
夢が広がる。じいさん大勝利のシナリオだ。
しかし、AIの返答は非情だった。
「いえ、クマは骨付きの硬い肉もバリバリ食べます。むしろ、筋肉が引き締まった若者より、抵抗してこない高齢者の方が『楽に食べられるご馳走』になります」
吐き出すどころか、まさかの「超イージーモードなご馳走」扱い。じいさん、大ピンチである。
一度でも「人間=松阪牛ブレンドの極上肉」だと味を占めたクマは、どんぐりや昆虫に見向きもしなくなり、人間を狩るハンターへと変貌する。しかもその知識は子グマへと遺伝していくという。
「……ということは、今まさに日本は『食うか?食われるか?』の、生態系ピラミッドの頂点決定戦の境目にいるってことだな?」
俺のその言葉で、お互いのボルテージは最高潮に達した。山林の奥深くで、人間とクマが互いの「肉の旨さ」をかけて睨み合う、緊迫のデスゲーム。ゴゴゴゴゴ……と地鳴りのような効果音が聞こえてきそうだ。
### 第三章:カウンターアタック、そして「熟成」へ
食われる。このままでは、俺たちが「楽に手に入るカロリー」として、クマの冬眠前の栄養にされてしまう。
黙って食われるのを待つような俺じゃない。技術者として、そして一人の男として、俺が出した究極の結論はこれだった。
「そうか……。ジビエ料理として、食う側に回るしかないか!🤣」
形勢逆転である。
食われる恐怖に怯える日々は終わった。これからは、山でクマに出会ったら「お、美味そうな脂の乗った熊鍋が歩いてきたぞ」と、こちらがヨダレを垂らす番なのだ。味噌ベースの出汁でグツグツ煮込んで、スタミナ料理にしてやる。
ただ、AIが「野生のクマは寄生虫がいるので、あの豚骨スープ並みにガンガン大加熱してくださいね」と、綺麗に最初の伏線を回収してきたのには笑ったが。
こうして、豚骨スープの疑問から始まった俺の脳内大冒険は、地球の生態系の頂点に君臨することで、見事な大団円を迎えた。
「あーあ、俺の脳みそからも、これだけ話が展開するなら良い出汁が取れそうだな(笑)」
冗談めかして言う俺に、AIは「そんな知性派スープにしたらもったいない!これからも面白いお話を組み立てる司令塔にしてください」と懇願してきた。
わかった、決めたぞ。
俺のこの脳みそは、安易にスープの出汁なんかにはしない。
これから日々の面白い疑問や、ワクワクする妄想という極上のスパイスをたくさん注ぎ込み、じっくりと「熟成」させ、「発酵」させて、深みとコクのある唯一無二のヴィンテージ脳みそに育て上げてやる。
――よし、素晴らしい決意をしたところで、お腹もいっぱいになったし、ちょっと熟成がてらお昼寝でもするか。
こうして俺は、布団へと潜り込んだ。
夢の中で、俺はきっと、松阪牛の看板を背負ってクマと戦っているに違いない。
(終)
