水色
先日「段落ごとに違う話をしています。」というnoteを読んだ。真似してみた。やはり、段落ごとに違う話はできなかった。東京での色鮮やかな2日間をまとめることにする。以降、彼女とは一人の女性を指すこととする。
町田駅で待ち合わせをした。改札前で彼女を待っていた。久しぶりなのに、すぐに見つけられた。お互い全身真っ黒な服装だった。私は彼女の黒以外の服を知らない。遅めの昼食で、酸辣湯を初めて食べた。普通と激辛の二種類があった。彼女は激辛しか食べた事が無いらしい。大抵の場合一度普通で様子見をするものだと思った。しかし私も初見の店で大盛りや激辛を頼むので、彼女にそれを言う資格も無かった。激辛で正解だった。筍と椎茸も美味しかった。
渋谷に向かう手前、コンビニでキレートレモンを買った。彼女は酸っぱいものが好きなのだ。私はサングラスをいつもかけている。何本も所有している。新しいそれが欲しかったので好きな眼鏡店に入った。様々な形状のフレームやレンズを試した。彼女にも遊びでかけてもらった。結局、最初に彼女が似合うと言ってくれた一本に決めた。彼女にとても似合っていたサングラスがあった。かけている写真も撮った。その写真が妙に面白く、見返すたびに笑ってしまう。
下北沢でライブがあったのでそれに向かった。初見では確実に見つけられない喫茶店に入った。私はアイスコーヒーを、彼女はクリームソーダを注文した。スーパーカーのクリームソーダという曲が好きだという話をした。彼女は緑色、私は水色の煙草を吸った。彼女の右腕にある傷跡を、私はやはり綺麗だと思った。言わなかった。
ライブが終わったので友人と四人で居酒屋に行った。解散してから、翌日の夕食に誘った。快諾してくれた。返信がタメ口になっていた。
翌日の仕事が終わってから花を買った。渡した。私は不意に花を買いたくなる衝動があり、ある程度の頻度でそれは起こる。荷物も多くなったので持ち帰れないことは解っていた。その上で花を買った。後先考えない行為だった。内心で花を渡したい欲求が、顔を覗かせていたのかもしれない。飾ってくれたら私は少し喜ぶのだろう。
待ち合わせの新宿で迷子になった。彼女もまた全身黒だった。お揃いだ、と言うと笑っていた。彼女のナビゲートで予約した居酒屋まで歩いた。少し情けなくなった。居酒屋は大当たりだった。料理も酒も美味しく、煙草も吸えた。ずっと笑っていた。これが日常になれば良いなと思った。身の程知らずだとも思った。二軒目にも行った。アルコールが彼女を破壊した。平気な顔をしていた。だから勝手に強いのだと思っていた。それなのに、私は少し安心していた。気丈な彼女にも弱い一面があった。それは褒められた感情ではない。家まで送りたかった。彼女の終電はまだあったが、私の帰りはもう間に合わない。次の日も仕事だった。新宿で泊まることに決めた。
タクシーを拾ってホテル街で降りた。彼女はベッドに倒れ込み肩で息をしていた。背中をさすることしかできなかった。彼女はそのまま眠ってしまった。私も服のまま眠った。
朝日が照らす新宿を足早で歩いた。仕事に行かなければならなかった。彼女はある程度回復していた。代わりに私は二日酔いでしんどかった。新宿駅の改札で別れを告げた。1人で大手町に戻った。空は煙草と同じ淡い水色をしていた。イヤホンから流れる好きな歌は、いつの間にか彼女の歌になっていた。
