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だって、あの松阪牛ですもの・・・

11月は怒涛の旅行月間であった。
ほぼ、毎週末にはけっこうな遠方までお出かけして、見聞を広めたのである。楽しかったが、なんでこんなにスケジュールを詰め込んでしまったのか。うむむ。

伊勢・鳥羽に出かける用事があり、ご縁あって、松阪牛を食べに行く機会に恵まれたのだった。
松阪牛と言えば、日本国中でブランド牛が割拠する中、諸説あろうが、そのトップに君臨する存在ではなかろうか?
全国のブランド牛のルーツは、一説によると滋賀の「近江牛」にあり、そちらの方も個人的に大いにリスペクトしているのだが、やはり、松阪の知名度は圧倒的なものがある。というか、すごいのだ。

私も思い起こせば、松阪で松阪牛を食したのは生涯2度きりである。
一度目は30年以上前、知り合いと潮岬方面へ一泊二日のツーリングに行く途中、ステーキを食べたのが最初だった。店の名前は忘れてしまった。まあ、30年以上も前のことだからして。

それから数年たった後、家族でかの有名店「和田金」でステーキだかあみ焼きを食した記憶がある。我が息子は当時2歳になったばかりで、親はパクパクを牛肉を食べる傍ら、彼はファミマで買ってもらった卵ワッフルとおにぎりを喜んで喰う景色に、仲居のお姐さんに「あ~ら、せっかく松阪に来たのに可哀そうねぇ」と笑われたのだ。
とはいえ、その時のつけだれが印象に残っており、タマネギのみじん切りが浮かぶ、確かワイン仕立てであった、特徴のあるソースであった気がするのだ。記憶はあやふやだが、たぶん、そうだ。

それから30年がたち、これで松阪に来るのは3度目である。

今回の食事処は「牛銀本店」。

明治35年創業というから、すでに120年以上を経た老舗中の老舗だ。
城下町松阪の風情を残す魚町というところに立地しており、路地裏をえっちらおっちら車を進めてなんとか到着した。細い路地である。ほんとうに、ここでいいのか? と不安になりながら、車は進んでいくのであった。

歴史あるたたずまい

店に到着すると、さっそく二階の座敷に通され、丸テーブルを囲む。

ここのすきやきは全て仲居のお姐さんが段どってくれる。
一人で2テーブルを切り盛りするので、お姐さんは大忙しだ。テキパキと動く。

きたきたきた。

定番の白菜は入らない

やがて運び込まれる肉とザクを目にすれば、心は早くも臨戦態勢に入るのだ。

サシもほどよい

熱した丸鍋に牛脂が溶けるころ、牛を鉄板でさっと焼き、割り下を使わずに砂糖と醤油だけで味を調えていく。砂糖醤油で味付けした和風焼肉といった風情だ。

まいりますわよ
アツアツのうちにどうぞ

あんばいよく焼きあがったところで、といた地鶏卵に取り分けてもらう。

松阪ですきやきを食するの初めてである。
どんな感じだろう?
ふうむ。

ちょっと、リフトアップ

「たいへん、いいお肉ですわね」

この程度の食レポでまことに申し訳ない。これは確かに旨いすきやきなのだ。
ただ、近江、神戸、米沢・・・、今は全国どこのブランド牛も旨い。
とびぬけてこの松阪牛独特のうま味が・・・というところは、私の味覚をもって嗅ぎ分けることができなかった。

そこで、すかさず、お姐さんに訊いてみた。

「毎日、肉を焼き続けて、うわぁ、今日はお肉なんか見たくないわぁとか思うことはないの?」

「そんなことはありませんわ、今、焼いていたって、いいお肉だわぁ、美味しそうだわぁと思いますわよ。だって、あの松阪牛ですもの」

なるほど、これだ!
微笑みながら応えるこのプライドこそが、松阪牛のブランドを支えているのだ。

「ここだけのハナシ、実はちょっとお肉に飽きてるのよぉ」とは決して言わない・言わせない、絶対王者としての矜持をそこに感じたのであった。

もぐもぐと肉を食べていると、すかさずお姐さんがザクを投入する。
これも醤油と砂糖で味をつけていくが、汁が出にくい野菜を選んでいるため、決して割り下でダボダボした牛鍋にはならない。

こちらもドライな仕上がりで、卵とともにいただく。
シメにうどんを投入とは絶対なさそうな展開だ。もし、強行したとするとそれは焼きうどんと化すであろう。

最後は、卵を追加投入して、TKGだ。

偶然、葉っぱがのって、よい具合に

そういうお客が多いのか、お姐さんもよく心得ているようで、お代わりのご飯を大いに勧めてくれた。
ううむ、松阪牛のうま味を吸い込んだTKGはもはやもうひとつの主役だな。いや、すでに主役であるかもしれないな。

生涯3度目の松阪にして、初のすきやき。

すでに商品として優劣のつけにくいブランド牛の市場。
あとはほんのわずかの差に過ぎない。
仲居のお姐さんが発した「トップブランドたる松阪牛への自信と愛」にあふれる言葉ひとつで、こぶし一個分リードしてるじゃないか…

と思いながら、しぐれ煮を土産に店を後にしたのであった。

牛銀本店HPから

また、30年後、銀河をめぐる彗星のように再び訪れるかもしれないのである。牛銀本店のみなさん、それまでお元気で。


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