【職場で“財布”が無くなった話。】
ある日、
わたしと同僚のAちゃんは、
普段あまり使わない階のトイレに行った。
そこは個室が1つに、
手洗い場が2つだけの小さなトイレ。
手洗い場のところに、
ひとつポーチが置いてあった。
「忘れ物かな?」
わたしとAちゃんは顔を見合わせる。
持っていった方がいいのか、
それともこのままにしておくべきか。
少し悩んでいると、
清掃員のおばちゃんが入ってきた。
「あら、忘れ物?」
「これ、どうしたらいいですかね…?」
そう聞くと、ちょうどそのタイミングで、同じ階の先輩が入ってきた。
「あ、それ○○さんのだと思う!今廊下でしゃべってたから、戻ってくると思うよ。言っとくね」
それを聞いて、ひとまず安心。
「よかったよかった」と、
わたしたちはその場をあとにした。
─────それから、2時間後。
清掃のおばちゃんが、
わたしのところに来た。
「さっきのお財布、
あなた持っていってないよね?」
「え?持ってないです…」
「おかしいわねぇ。
本人が戻ったら、無かったんだって」
「えぇ…?」
一気にざわつく空気。
あのとき、
預かっておけばよかったのかもしれない。
そんな罪悪感がじわっと出てくる。
その後、トイレで会った先輩も来た。
「すぐ本人に伝えたんだけどさ、
ずっとしゃべってて戻るの遅くて…」
「あの中にお金も保険証も免許証も入れちゃってたみたいでさぁ」
え…、それは、かなりまずい。
「わたしたちが出たあと、誰か入ったのかもね」
そんな話をしていると、
同僚のBちゃんもやってきた。
「え!あたしそのポーチ見ました!中に人いると思って、そのままにしちゃった」
3人で一気に気持ちが沈む。
「これ、疑われたりしないよね…?」
「大丈夫だよ、ちゃんと説明すれば…」
そう言いながらも、
なんとも言えない空気が残る。
しばらくして、持ち主の本人が来た。
「ごめんね、お騒がせして~」
「いえ…すみません、気づいたときに預かればよかったですよね」
「置きっぱなしにしてたわたしが悪いからさぁ…」
「上司にも報告したし、清掃の人たちにも確認してもらってるところだから」
「もし何か聞かれたらごめんね」
そう言って、
その場は一旦おさまった。
それでも、なんだか引っかかっていた。
あの場に出入りしたのは───
わたしとAちゃん、
Bちゃん、先輩、そして清掃のおばちゃん。
盗んだ人がいるのだとしたら…
そう思いたくないけれど…
なんだか状況が…。
そのあと、Aちゃんとふたりで話していた。
「ねえ、あのポーチって何色だったっけ?」
「白っぽい…?いや、ベージュっぽい感じ?」
そこにBちゃんが戻ってくる。
「誰も見てないっぽい。やっぱりわたしたちだけだね」
「ねえBちゃん、あれ白じゃなかったよね?」
「うん、薄いベージュって感じだったと思う」
少しして、
また清掃のおばちゃんが来た。
「他の人にも聞いたけどね、今日はあそこ担当わたしだから、他の人はやっぱり見てないのよねぇ」
困ったねぇ、と言いながら去っていく。
「そろそろ戻るね」
そう言って帰り際、
Bちゃんがふと口にした。
「ねえ、あのポーチの中身って、リップとか生理用品じゃなかったの?」
「え?違うよ。お金とか保険証とか入ってたらしい」
「え、やば、そうなんだ…かわいそうだね」
そう、【ずっと、違和感があった。】
わたし
「わたしも…最初見た時、メイク直し系が入ってると思ったんだよね」
Aちゃん
「ね、トイレだしね」
わたし
「…ねぇ、…あれお財布に見えた?」
Aちゃん
「……ううん」
わたし
「先輩も、そんな感じじゃなかったんだよなぁ…」
Aちゃん
「Bちゃんも、生理用品とかって言ってたしね…」
わたし「……ねえ」
Aちゃん「うん…」
・
・
・
あのときのことを思い出してみる。
小さなトイレ。
個室はひとつだけ。
わたしたちが先に入っていたのに…?
みんなには、ただのポーチに見えていた。
化粧ポーチか、
生理用品を入れているものか。
そのくらいにしか思っていなかった。
───なのに───
あのひとだけは、最初から
「お財布」
と言っていた。
……ちょっと、ゾッとした。

UNIちゃんです。
【ちょっと、ゾッと。話】
いかがでしたでしょうか?
この話、
実際にあった出来事をもとにしているんです…。
人間観察オタクの
【ちょっと、ゾッと。】シリーズ、
また書いていきたいと思います。
お楽しみに。

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