素敵な人類愛の物語
企業の社会貢献のお話
特殊ミルクってご存知ですか?
小児科医として働いてきた30年を振り返ってもとても大事な事だと感心したお話です。とても真面目なお話しです。
特殊ミルクという言葉をご存知でしょうか?
特殊ミルクは先天代謝異常症やアレルギー疾患など対象疾患に応じて成分を制限したり強化したりして栄養素を調整した治療用のミルクです。
治療ミルクのうちよく知られているのはミルクアレルギーに対応するため製造されているミルクで、これらは市販品されているので薬局などで見かけたこともあるのではないでしょうか。
今日は我々がまず目にすることのない特殊ミルクについてお話ししたいと思います。
日本で生まれる赤ちゃんが生まれてから産科を退院する間に必ず受ける検査があります。新生児マススクリーニング(先天性代謝異常症症等検査)という検査です。当初は5種類の疾患の早期発見から始まりましたが、医学の発展とともに検査法も開発が進み、検査できる疾患がアミノ酸代謝異常症5疾患、有機酸代謝異常症7疾患、脂肪酸代謝異常症5疾患、糖代謝異常症1疾患、先天性内分泌疾1疾患の早期発見に役立てられています。2012年から19疾患、2018年には追加があり20の疾患の検査を行なっています。この検査で見つけることのできる先天代謝異常症という疾患は頻度の高い疾患ではありませんが早期発見により、治療や対処法があり、症状の出現を防止したり軽減することができる可能性のあるため行われています。
そしてその治療に使われるのが特殊ミルクなのです。発見される代謝疾患の治療に必要な食事療法に『特殊ミルク』がそれぞれの疾患に応じて成分を制限したり強化したりして製造されます。ですから患者さんは少なく、製造コストも他のミルクと比較すると大変費用がかかり、種類も疾患に応じて異な流ため多岐に渡ります。製造しても採算が取れるものではないのです。
例えば、フェニルケトン尿症という疾患はタンパク質を構成いているアミノ酸の一つであるフェニルアラニンの代謝に障害があり、血液中のフェニルアラニンの濃度が上昇してしまいます。症状には知的障害などがあり、フェニルアラニンの摂取量を減らすことが必要です。食事で摂るたんぱく質にはフェニルアラニンが含まれるため、フェニルアラニンを避けるにはごくわずかなタンパク質しか摂取できず、成長に支障が出てしまうのです。出生直後よりフェニルアラニン除去が必要ですからフェニルアラニン除去ミルクという特殊ミルクが必要不可欠となるのです。
別のアミノ酸の代謝異常もあり、たんぱく質全てを除去しなければならない疾患もあり、糖や脂質など病態に応じて44種類の特殊ミルクが製造されています。
商業ベースでは作れない特殊ミルク、必要としている赤ちゃんがいるミルク、どうやって供給されているのでしょうか。
経費の半分は公費で賄われますが、乳業会社の持ち出しとなっているのです。明治株式会社、森永乳業株式会社、雪印メグミルク株式会社の3社が製造しています。さらに公費が負担している対象は小児のみ20歳以上は対象となっていません。成人が必要としている特殊ミルクの費用は全て乳業会社が負担しているという事実をどのくらいの国民が知っているでしょうか。
私がこのことを知った時、非常に感銘を受けました。全て乳業会社が無償提供しているのです。そこで私が声を大きくして皆様にお伝えしたいのは、「みんなで牛乳を飲もう」「みんなでヨーグルトを食べよう」「みんなでチーズを食べよう」さらには「牧場で臭いっていうのはやめよう!」ということです。何でやねん!
なぜならこの乳業会社の生産が限界に近づきつつあるという事実があります。
特殊治療ミルクは先天性代謝性疾患だけではなく難治性てんかんや、遺伝性胆汁打うっ滞症、小児慢性人疾患などの治療にも使用され成人でも使われるようになりました。治療できる疾患が増え、治療により必要となる期間も長くなり、必要量も増加していくことは医学の進歩の賜物とも言えるでしょう。その反面、2001年には10000kgの供給量でしたが2014年には20000kgと倍に増加しているのです。このための費用はおおよそ3億3600万円といわれています。特殊ミルクを製造している各メーカーは年間約2億円負担しているといわれています。それにもかかわらず緊縮財政の波が押し寄せてきており、国からの助成金額が減少しているのです。
特殊ミルクの安定供給がこの先も継続できるのか警鐘が鳴らされるようになってきました。
例えば『ケトンフォーミュラ』というミルクがあります。乳幼児の難治性てんかんの治療用特殊ミルクです。普通の粉ミルクに対して炭水化物が非常に少なく、脂質が高く、詳しい説明になりますが代謝過程でカルニチンを必要としない中鎖脂肪酸が豊富に含有されているので海外のケトン食用ミルクとは異なります。
ケトン食が必要な乳幼児は必要な水分量、摂取カロリー、適切なケトン比を計算して食事内容を決めます。ミルク栄養が必要な乳児において、海外のケトン食用ミルクと比較しても簡便にケトン食を提供することができるのです。
ミルク栄養から離乳食開始するに当たり、食事形態の変化に応じてケトン食を行なっていくことはとても難しく、脂質の多いケトンフォーミュラを混ぜながら調理を行なっていきます。乳幼児期以降にもピザやクッキーなどに混ぜて調理することによりケトン食を継続する一助として非常に有効性が高いのです。
しかし特にこのケトンフォーミュラは製造コストがかかるようです。なぜなら脂質含有量が高いため、製造設備機材内に成分が付着しやすく、連続して生産が難しく、製造過程の機器の洗浄にも手間暇がかかります。また充填する際には品質を保つためには一つずつ手作業で行われているそうです。
特殊ミルクはさまざまな疾患で必要不可欠なものでありながら、各乳業メーカーの負担の上に成り立っていることがお伝えできたでしょうか?
医学の発展とともに治療できる疾患は増えている、平均寿命も伸びている、その幸せの裏側でさまざまな方面で悲鳴も上がっていることは周知の事実かと思います。労働力、経済力、歪みはなかなか思うようには正せません。この特殊ミルクという決して母数の大きくない世界でも善意では継続していくことが難しい問題が生じています。どの問題も解決策は一つではなく、色々な職種の多くの方に知っていただくことが大切なのではと思います。
『もっとミルクを!もっとヨーグルトを!もっとチーズを食べようぜ!」
ありがとう明治さん、森永さん、雪印さん!
