くたびれたシャツを捨ててはじめて香水を買った話|孤独上等
年齢を重ねるほど自分をどう扱うかがいつもの姿に残っていく・
先日、職場で同僚の女性から黒いシャツの色が抜けていることを指摘された。
自分では黒のつもりで着ていたが、よく見ると、もう黒とは言いにくい
中途半端なグレーだった。
毎朝、鏡は見ている。
寝ぐせやヒゲ、ボタンの掛け違いくらいは確認しているつもりだった。
それでも、シャツの色が変わっていることには気づかなかった。
年齢を重ねると、身だしなみは急に崩れるわけではない。
靴のかかとが減り、襟がへたり、髪型は何年も同じになる。
本人はいつものつもりでも、周りから見ると、どこかに年月が出てくる。
そういうことは、案外あるのかもしれない。
別に若く見られたいわけではない。ただ、何もしないでいると、
勝手にくたびれた方へ寄っていく。
だったら、自分で少しくらい整えなくては。
そんな流れで、なぜか香水が頭に浮かんだ。
香水なんて、今までほとんどつけたことがない。
思い出そうとしても、一度あったかどうか。
それこそ三十年か四十年前、若い頃に誰かからもらったものを
面白半分でつけたくらいかもしれない。
男が香水なんて…。といった意識も正直あった。
だから香水は、自分の中ではずっと遠いものだった。
おしゃれな人がつけるもの。香りで自分を演出するのが上手な人のもの。
毎朝だいたい同じ服を着て出かける自分には、
あまり関係がないと思っていた。
ただ最近、職場で香りが気になることが増えた。
近くを通っただけで、うわっと思うほど
強い匂いが鼻に届くこともある。
香水なのか、柔軟剤なのか、整髪料なのかは
わからないが、通り過ぎた後まで残る香りには
少し身構える。
その一方で、ふと横を通ったときに、
何かいい匂いだなと思うこともある。
はっきり香水とわかるほどではない。
清潔なシャツのようだったり、石けんのようだったり、
柑橘のようだったりする。
近づいたときだけ感じて、すぐに消える。
そういう香りに出会うことが増えて、
香水も悪くないのかもしれないと
思うようになった。
自分の匂いは、自分ではなかなかわからない。
だから香りを足すなら、自分が満足することより、
周りが困らないことの方が大事なんだろう。
調べてみると、最初ならサボン系やシトラス系がいいらしい。
いきなり重い香りや甘い香りを選ぶのは気が引ける。
石けんや柑橘なら、少なくとも「洗ってきました」という方向には行けそうだ。
ということで、サボン系の手頃な香水を一本買ってみた。
注文ボタンを押しただけなのに、
なぜか少しワクワクした。
黒いシャツを買い替えることも、
香水を一本買うことも、大げさな変化ではない。
それでも、何も変えないまま年を重ねるより、
自分の扱い方を少し変えてみる方が
面白い気がする。
noteを書き始めてから、
以前なら「まあいいか」で終わっていたことに
立ち止まるようになった。
誰かの一言や、店で見かけたものが引っかかり、
そのまま自分の中に転がり込む。
書くために暮らしているわけではない。
ただ、書き始めてから、暮らしの中に小さな入口が増えた。
香水が自分に合うかどうかは、まだわからない。
毎日つけるのか。出かける日だけにするのか。
腰か脇腹に一回だけにするのか。
そのあたりは、使いながら決めればいい。
誰かに気づかれるほどでなくていい。
出かける前に、今日はいつもの自分より
少し整っていると思えたら、それで十分だ。
黒いシャツの色が抜けていたことから始まった話だけれど、
香水一本で、いつもの朝が少し変わるかもしれない。
そういう小さな変化なら、53歳からでも悪くない。
《次回も、また目にしていただくと嬉しいです。》

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