第8話「聖核砕け、黒刃走る」
──王都グラナム、中央広場。混乱の渦中。
白銀の英雄と、冥府の復讐者が激突する中、
民衆はその光景を“信じられぬもの”として遠巻きに見ていた。
「回避行動確認──再調整開始」
アーリオはまるで機械のように感情を見せず、
再び宙へと跳躍した。
「冥府刃術・第八式《斬界(ざんかい)》」
リュークが空を切り裂くように一閃する。
──黒炎の刃が、空間そのものを“断ち切った”。
アーリオの体が切断され、上半身と下半身が一瞬空中に浮く。
だが──
「──再構築開始。聖核展開」
アーリオの胸部で、青白く輝く球体が脈動し始める。
刹那、切断された身体が光に包まれ、瞬時に修復された。
「……マジかよ。あれが“聖核”の力か」
リュークが舌打ちする。
フィーネの声が届く。
「“聖核”は、古代神殿の封印から抽出された純粋魔力の結晶体……
それを肉体に埋め込むなんて、正気じゃない……!」
「正気じゃねえから、ラズティンなんだろうよ」
リュークはもう一度剣を構え直す。
だが、ただ力で斬るだけでは意味がないと、すでに理解していた。
──あれは、人ではない。
──だが、“魂を持たない”からこそ、破れる隙がある。
「こいつには、“迷い”も“痛み”もない。だが──」
「“心を持たない奴”は、死者の叫びを聞けねえんだよ」
その瞬間、リュークの背から無数の黒影が立ち上がる。
冥府刃術・奥義──《冥哭連撃陣(めいこくれんげきじん)》
死者たちの憎悪、哀しみ、未練──すべてを刃に変えた、冥府の最終形態。
「さあ、受けてみろ。これが“人の呪い”だ」
──斬撃。
──斬撃。
──斬撃。
アーリオの聖核を狙い、何十という軌道が交差し、撃ち込まれていく。
「聖核、防御限界値……超過……」
アーリオの身体がついに膝をついた。
胸の聖核に、亀裂が走る。
「リューク……!」
フィーネが叫ぶ。
その声に応えるように、リュークが最後の一歩を踏み出す。
「冥府刃術・第九式──《断魂(だんこん)》」
黒炎の刃が、アーリオの胸を貫いた。
──カッ!!
閃光と爆音が走る。
聖核が破裂し、青白い光が空へと消えていく。
アーリオは動かなくなった。
「……終わった、か」
リュークはその場に膝をつき、深く息を吐いた。
その瞳は、憎しみの炎にまだ揺れていたが、
その奥に“言いようのない虚しさ”が見え隠れしていた。
「たとえ造られた英雄でも、命を……」
フィーネが口を噤む。
「違う」
リュークは、静かに呟いた。
「あれは命なんかじゃねえ。あんなもんは、“武器”だ」
「だが……」
リュークは拳を握りしめた。
「そうまでして、俺を殺そうとした。つまり──」
「ラズティンは、まだ“切り札”を隠してやがる」
* * *
その頃、王国の地下。
ラズティン侯爵は、黒い帳の奥でつぶやいた。
「ふむ……アーリオが敗れるか。実に面白い」
「ならば──次は、“彼女”を起こす時か」
ラズティンの背後、赤い水槽の中で静かに眠る少女。
その眼が、わずかに開かれた。
【次回予告】
第9話「目覚めし紅の処刑人(エクスキューショナー)」
アーリオが敗れたことで、王国はさらなる切り札を解放する。
それは“冥府の力を取り込んだ少女”。
死と生の境界を越えた存在が、今──リュークの前に立ちふさがる。
