終わらない時代 番外編
『終わらない時代』の番外編です。
巨大樹によって世界が崩壊する前、ジュリア、リン、ミネルがシホロ基地で過ごしていた頃の日常を描いています。
本編では語られなかった、平和だった頃の物語です。
本編はこちらです。↓
失われた日常
シホロ基地はいつも通りの朝を迎えた。
夜勤の兵士達が談笑しながら寮に向かう。
食堂のスタッフが慌ただしく厨房内を動き回る。
起床した兵士達が続々と食堂に集まる。
シホロ基地の日常である。

「リン、起きて。いつまで寝てるの?」
ジュリアの声で目を覚ますリン。
入隊初日からこうしてリンを起こす。
「ん…?おはよう、ジュリア…。」
リンは何度か寝坊し、罰として掃除や腕立て伏せをさせられていたのは言うまでもない。
「食堂に行くよ。」
ジュリアはそう言い残し一人で食堂に向かった。
リンはぼんやりしながらブーツを履き、後を追う。
食堂ではミネルが先に食事をしていた。
「おはよう。」
ミネルはジュリアとリンに挨拶する。

「リン、どうしたの?」
ミネルは不満気な表情のリンに聞く。
「このサラダ、少なくない?」
食べる事が大好きなリンはいつも食事に対して不満を口にしていた。
一昨日は「カレーに肉が入ってない!」
昨日は「パンが硬い!」
ミネルはリンの不満をいつも笑って聞いていた。
――基地の訓練所
今日は射撃訓練の日だ。
兵士達が横一列に並んで拳銃を構える。
「撃て!」
ダン!ダン!ダン!
教官の号令で兵士達はターゲットに向けて発砲する。

(ジュリアは問題ないな…。)
(リンは…以前よりも良くなっているな…。)
教官は兵士達の後ろからフォームや癖をチェックしていく。
射撃訓練が終了し、ターゲットを確認する。
「ジュリア、すげぇな!百発百中じゃないか!」
ジュリアが撃ったターゲットに兵士達が集まっていく。
「え…?普通…だけど。」
ジュリアは親友のリンとミネル以外の人と話すのが苦手だった。
「そうだよ!ジュリアならこれくらい余裕よ!」
リンが割って入る。
「リン、そう言うお前はどうなんだ?」
兵士の一人がリンが撃ったターゲットを見た。
「おいおい!全然当たってねぇぞ!ハハハ!」
周りの兵士達も笑う。
「今日はたまたま調子が悪かっただけだから!」
リンは反論するが誰も聞いていなかった。
――基地の売店
「今日はどれにしようかな!」
嬉しそうな表情のリン。

「これ、昨日食べたよね?違うのにしたら?」
ミネルはそう助言した。
「うーん。チーズ味、気に入っているんだよな…。」
リンは真剣に選んでいる。
新米である彼女達の給料は少ない。
(味を取るか、安さを取るか…。)
リンは毎日悩んでいた。
だけど悩んでいる時間が楽しかった。
――休憩室
「ジュリア、お待たせ!さ、食べよう!」
リンは売店で買ってきたお菓子をテーブルに並べる。
「またこんなに買って…。お金は大丈夫なの?」
ジュリアは呆れた表情でお菓子を見つめる。

そして、いつもの『女子会』が始まった。
「アイツら何なの!自分だって射撃外してたくせにさ!」
愚痴をこぼすリン。
「リン、だんだん良くなっているよ?」
ジュリアはリンの上達を褒める。
「ふふ。楽しそうね…。私なんか資料整理ばかりよ?」
ミネルにも不満があるようだ。
休憩室でお菓子を広げて談笑する。
彼女達にとって数少ない至福の時間。
3人は屋上に上がった。

「はぁ…明日も訓練か…。」
リンが夜空を見上げる。
「平和だね。」
ミネルがぽつりと呟いた。
「そうね。」
ジュリアも夜空を見上げる。
その時の三人は知らなかった。
この日常が終わりを迎えようとしている事を。
彼女達は少し喋った後、部屋に戻り眠りについた。
これがいつもの日常。
永遠に続けばいいのに…。
