終わらない時代 第33話
『追い求めたもの』
ジュリアたちは廃村に到着した。
廃村は以前訪れた時と変わらず、人の気配はない。

「どこを探すの?」
ジュリアがミネルを見る。
「特効薬があるなら、きっと診療所ね。」
「それじゃあ、行こう!」
リンはすっかり元気を取り戻した様子。
しばらく歩くと、診療所の看板が見えてきた。
「ここね。」
診療所の中は荒れ果てていた。
書類や医療器具、割れたガラスが床一面に散乱している。
三人は手分けして特効薬を探し始めた。
静まり返った診療所には、物を動かす音だけが響く。

「……それらしい物はないわね。」
ミネルは開いた戸棚を覗き込みながら呟く。
埃を被った薬品。
ボロボロになったカルテ。
特効薬どころか、手掛かりすら見当たらなかった。
「誰かが持ち出したのかも……。」
ジュリアはそう推測したが、確かな根拠はない。
「あれ……?」
「この棚……引きずった跡がある。」
ジュリアが床の傷を見つけた。
ジュリアとミネルは二人がかりで棚を動かす。
ギギギ……。
重い音を立てながら棚がゆっくりと動く。
その奥には、地下へ続く階段が隠されていた。
「これ、絶対何かあるよね!」
リンの声が弾む。
三人は顔を見合わせると、慎重に地下へと足を踏み入れた。

地下は研究室になっていた。
古びた機器。
埃の積もった机。
錆びついた棚。
長い年月が過ぎているにもかかわらず、荒らされた形跡はない。
「これ……特効薬の研究資料?」
ミネルは資料に積もった埃を払い、一枚ずつ目を通していく。
「材料は……これで……でも、この数値は……。」
独り言を呟きながら、夢中で資料を読み進めていた。
(また始まった……。)
ジュリアは思わず小さく笑う。
研究の事になると、周りが見えなくなる。
昔から変わらないミネルの癖だった。
「ん……?」
「これ、何か怪しい。」
リンは扉付きの棚の前で足を止めた。
「ジュリア、手伝って。」
二人で力を込める。
ギギギ……。
重い音を立て、錆びついた扉がゆっくり開いた。
棚の中には、小さなケースが一つだけ置かれていた。

ケースを開く。
「あっ!」
「これ、特効薬じゃない?」
中には未使用の注射器が何本も丁寧に並べられていた。
ラベルには『特効薬』と記載されている。
ミネルはケースを見つめ、小さく息をのむ。
「持っていこう。」
ジュリアは安堵の表情を浮かべた。
「任務完了ね。」
「この資料も基地へ持ち帰って詳しく調べてみる。」
ミネルは資料を丁寧にまとめ、バックパックへしまう。
「それじゃ、行こっか!」
リンは笑顔で歩き出した。
廃村を歩く三人。
ザッ――。
背後から足音が聞こえた。
「ほう。それが特効薬か。」
三人が振り返る。
そこには、ヴィクターが立っていた。
「は……?」
「どうして、ここに……?」
ジュリアは動揺を隠せない。
「よく見つけたな。」
「それは、我々が長年探し求めていたものだ。」
ヴィクターはゆっくりと手を差し出す。
「それを渡せ。」
静かな声だった。
しかし、その言葉には凄まじい威圧感があった。
「嫌だと言ったら?」
リンが一歩前へ出る。
「ふぅ……。」
ヴィクターが小さく息を吐いた。

その瞳が、赤く光る。
ドン!!
「ぐっ!?」
次の瞬間、リンの腹部に強烈な衝撃が走った。

身体が宙を舞い、廃屋の外壁へ叩きつけられる。
「リン!!」
ジュリアが振り向いた、その瞬間――。
「うっ!!」
重い衝撃。
ジュリアも大きく吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられた。

「ゲホッ……ゲホッ……!」
「その程度か?」
ヴィクターはミネルへ視線を向ける。
「ッ……!」
ミネルは怯えながら後ずさる。
ドクン……!
(今度は私が……!)
ドクン!
(友達を守るんだ!)
ドクン!!

リンの瞳が赤く光る。
勢いよく拳銃を抜き、撃つ。
ダン! ダン! ダン!
「ふん……。」
ヴィクターは身体をわずかに動かし、弾丸を全て避ける。
「その力を見せてみろ!」
「!!」
ヴィクターの蹴りが迫る。
リンは紙一重で身を屈めた。

しかし――。
「あっ!」
拳銃を弾き飛ばされる。
続けて放たれた拳を、後方へ跳んで回避した。
「はぁ……はぁ……。」
地面に倒れていたジュリアが、震える腕で身体を支える。
ドクン!
「リン……。」
ドクン!!
「今、助ける……!」

ジュリアはゆっくりと立ち上がった。
その瞳もまた、赤く光っている。
拳銃を構え、ヴィクターへ向けた。
「む?」
ヴィクターがジュリアへ視線を移す。
「来い……。」
ダン! ダン!
再び銃声が響く。
しかし、ヴィクターは弾丸を軽々と避けた。
「遅い。」
一瞬で距離を詰め、拳銃を掴む。
そのまま膝蹴りを放った。
「ッ!」
ジュリアは拳銃から手を離し、身体を捻って躱す。
「ほう……。」
ヴィクターは楽しそうに口元を歪めた。
「少しはできるようだな。」
圧倒的な余裕を見せるヴィクター。
その一方で――。
ミネルは恐怖に縛られ、動くことができなかった。
「ミネル! 逃げて!」
ジュリアが大声で叫ぶ。
ミネルは一瞬ためらった。
しかし、二人の姿を見た後、その場から走り出す。
ジュリアはヴィクターへ視線を戻した。

ジュリアとリンは同時に構えた。
「リン、いくよ!」
「了解!」
再び激しい攻防が始まる。
