(ショートショート)真っ白な思考と君のここだけの話
わずかに汗ばむ風が、季節の移ろいを告げている。
僕はあの日、持てる限りの勇気をかき集めて、ずっと想いを寄せていた君を遊びに誘った。
画面に踊る「いいよ」の二文字に舞い上がり、今日という日を迎えたのだ。
玄関を出る前、念入りに日焼け止めを塗り、この日のために新調したシャツの襟を整える。
足元は、背伸びしすぎない軽やかさを出したくて選んだサンダル。
完璧に整えたつもりだったけれど、君の家へと近づくにつれ、アスファルトを叩くサンダルの音が、僕の早まる鼓動とシンクロし始めた。
見覚えのある角を曲がると、淡い紫の花を揺らす大きな藤棚が見えてきた。
その鮮やかな色彩が視界に入った瞬間、喉の奥がキュッと締まる。
額にはじわりと汗が滲み、僕は震える指でLINEを打った。
『家の前まできてる』
間もなくして、重厚な扉が開く。
現れた君は、普段とは違う、特別に可愛い洋服に身を包んでいた。
あまりの眩しさに、用意していた「おはよう」の言葉さえ喉に引っかかって、僕はただ呆然と立ち尽くすことしかできない。
君はそんな僕の様子に気づいているのかいないのか、いたずらっぽく距離を詰めると、僕の耳元にそっと顔を寄せた。
「ねえ、ここだけの話だよ」
秘密を共有するような甘い囁き。
けれど、至近距離から漂う君の香りと、あまりの緊張のせいで、僕の脳内は真っ白にフリーズしていた。
君が何を言ったのか、その肝心な内容がどうしても頭に入ってこない。
視線を上げれば、陽光を反射する君の笑顔がただただ眩しくて。
こんなにも君に見惚れている僕は、今、一体どんな滑稽な顔をしているんだろう。
サンダルの音だけが、静かな住宅街に小さく響いていた。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
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ありがとうございました。
