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(ショートショート)風が吹く

 風が吹く。 

 頬を撫でるその感触は、冬の鋭さをようやく脱ぎ捨て、どこか瑞々みずみずしい春の匂いをはらんでいた。

 私はその心地よさに目を細め、吸い込まれそうなほど高く、澄み渡った青空を見上げた。

 三月。手に残る卒業証書の重みは、三年間という月日の結晶だった。

 高校を卒業した私は、この春から、見知らぬ街、見知らぬ人々が待つ「新しい環境」へと飛び込む。

 昨日までの「当たり前」が通用しない場所へ行くのは、正直に言えば、心許ない。

 期待よりも不安の方が、胸の奥で重くよどんでいるような気さえする。

 けれど、立ち止まっていても季節は容赦なく巡り、新しいカレンダーのページはめくられていく。

 「やるしかないんだ」

 小さく独りごちて、私はもう一度空を仰いだ。

 正解なんてどこにも落ちていない。

 道が正しいかどうかも、歩いてみなければ分からない。

 でも、この風が背中を押してくれるうちは、不器用でもいいから前を向いて歩き続けようと思う。

 まだ誰も足跡をつけていない、真っ白な未来へ。

 私は静かに、けれど確かな一歩を踏み出した。


Fin。


※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。