(ショートショート)七転び、やっと起き
何度挑戦しても、現実は冷たく私を突き放す。
失敗の泥にまみれ、勇気を奮い起こす力さえ尽きかけた時、スマートフォンの画面が、ある男の傲慢な言葉を映し出した。
かつて罪を犯し、警察沙汰になったはずのその俳優は、何事もなかったかのようにSNSで「やり直しのチャンス」を説いている。
この世は、なんて甘いのだろう。
表に出ない悪意が野放しにされ、罪を犯した者ほど「不屈の精神」という言葉を隠れ蓑にする。
「七転び、やっと起き」――それが私の現実だ。
転ぶたびに心は削れ、八回目に起き上がる頃には体中が傷だらけだ。
真面目に、誠実に生きてきた人間にこそ、その手を差し伸べるべきではないのか。
誰でも救えばいいという風潮に、吐き気がした。
私は天を仰ぎ、重い足を引きずる。
犯罪者に寛大な世界で、馬鹿正直に生きるのは苦しい。
けれど、私は決めた。
あんな軽薄な「起き上がり」とは違う、血の通った、私だけの意地で何度でも立ち上がってやると。
不公平なニュースが流れるスマホをポケットに放り込み、私は冷え込みの厳しい夜の街へと向かった。
年末の繁忙期、臨時の配達員として働く私の指先は、寒さで感覚を失いかけている。
「七転び、やっと起き――」
重い荷物を背負い、坂道を登るたびにその言葉が脳裏をかすめる。
要領よく罪を逃れる者がいる一方で、私は一つ一つの階段を自らの足で踏みしめる。
それがどれほど効率が悪く、報われないことか。
吐き出す息は白く、心は刺々しい刺で覆われていた。
最後の一軒を訪ねたときだった。
古びたアパートから出てきた年配の女性が、荷物を受け取りながら私の目を見て深々と頭を下げた。
「寒い中、いつも本当に丁寧に運んでくれてありがとう。あなたの歩く音を聞くと、ああ、今日も真面目な方が頑張ってくれているんだって、元気がもらえるのよ」
彼女はそう言って、ポケットから小さな、個包装のチョコレートを一つ、私の凍えた手に握らせてくれた。
それは、世間から見ればちっぽけな、取るに足らない出来事かもしれない。
けれど、私の「誠実」を誰かが見ていてくれた。
その事実は、どんな派手な称賛よりも深く私の胸に染み渡った。
これが、私への小さな、でも確かな報い。
冷えたチョコを口に含むと、尖っていた心が少しだけ丸くなった気がした。
明日もまた、私は「やっとの思い」で起き上がるだろう。
けれどその足取りは、昨日より少しだけ軽くなっているはずだ。
Fin。
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ありがとうございました。
