(ショートショート)レシートに
レシートに、今日買ったものが無機質に印字されている。
僕はそれと手元の品々を照らし合わせながら、持参した買い物袋へ丁寧に詰め込んでいく。
昨日までそこになかったはずの「余計なもの」がカバンに収まるたび、重たいため息がこぼれた。
「また今日も、やってしまったな」
仕事帰りの空腹は、何よりの強敵だ。
胃袋が空っぽの状態でスーパーを歩くと、思考より先に手が動く。
あれもこれもとカゴに放り込んだ結果が、この少しだけ長すぎるレシートだ。
「お腹が空いているときに買い物をするのは、もうやめよう」
心の中で何度目かの誓いを立てる。
物価高が止まらない2026年の今、日々の生活は「節約」という二文字に支配されている。
贅沢なんて、今の僕には許されない。
かつては生活の彩りだった「推し活」でさえ、今はすっかり影を潜めている。
今はただ、明日を生きるための食料を確保することだけで精一杯なのだ。
ふと顔を上げると、周囲の大人たちも皆、どこか険しい顔でレシートを睨んでいる。
物価が上がれば、心までギスギスと削り取られていくような世の中。
けれど、だからこそ、僕はせめて自分の心にだけは「余白」を持っていたいと思うのだ。
経済が厳しくても、人やモノに接するときは、角を立てず、優しくありたい。
「自分さえよければいい」という冷たい波に飲み込まれず、買い物袋の底に詰めたパンのように、ふっくらとした余裕を抱えて生きていきたい。
僕は袋の口を縛り、背筋を伸ばした。
レシートはポケットに押し込んで、少しだけ冷たくなった夜風の中へ、穏やかな足取りで踏み出した。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
