(ショートショート)恋する女は嫌いだ アマノ文筆クラブ
初夏の強い日差しを避けるように、街路樹の影を歩いていた時のことだった。
ガラス張りのカフェの前を通り過ぎようとした僕の足が、不意に止まる。
(元カノだ・・・)
窓際の席に座っていたのは、少し前に別れた元カノだった。
元カノは手元にある一通の手紙をじっと見つめ、溢れんばかりの満面の笑みを浮かべている。
僕といた頃には見たこともないような、心底幸せそうなニコニコ顔。
それが妙に胸をざわつかせ、僕は吸い寄せられるようにカフェの扉を押してしまった。
店内に足を踏み入れ、わざわざ元カノの真後ろの席を選んで腰を下ろす。
メニューを開くふりをしながら、僕は背中越しに元カノの後頭部を鋭く睨みつけた。
衝動的に入ったものの、今さら声をかける勇気なんてない。
ただ、僕の視線の痛みに気づいて、少しは慌てればいいのにという、子供じみた復讐心だった。
けれど、元カノは僕の存在にこれっぽっちも気づきもしない。
相変わらず手紙の文字を愛おしそうに追いかけ、世界に自分たち二人しかいないかのように、その甘い空間に没頭している。
元カノの視界には今、その手紙の送り主しか映っていないのだ。
「これだから、恋する女は嫌いだ」
小さく、吐き捨てるようにつぶやいた。
席を立ち、伝票を掴んで店を出る。
自動ドアが閉まると同時に、店内の冷気と元カノの眩しい笑顔が遠ざかり、外の生ぬるい風が僕の頬を叩いた。
一体、どんな相手と新しい恋愛をしているんだろう。
どんな奴があいつをそんな顔にさせているんだ。
気にならないと言えば嘘になるし、少しだけ胸の奥がチクリと痛む。
だけど、駅へと向かう雑踏の中で、僕は小さく息を吐き出した。
今度こそ、あいつには幸せになってほしいと思う。
まあ、過去になった僕が言うことではないけれどな。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
