(ショートショート)山ねずみの灯り屋
森の奥深くにひっそりと佇むその店には、日が沈む頃になると、ぽつりぽつりと明かりが灯ります。
そこは、山ねずみの灯り屋。
夜を愛する者たちの間で評判の、知る人ぞ知る名店です。
今日の森は、月明かりさえ雲に隠れるほど、深く濃い闇に包まれていました。
そんな夜道を歩くのは、きっと心細いことでしょう。
店主である私は、お客様が来るのを静かに待っていました。
やがて、「カサッ」と小さな足音が響きました。
そこにいたのは、森の向こうからやってきた、まだあどけない山ネズミの子供でした。
「すみません。夜道が暗くて、怖くて」
大きな瞳を不安げに揺らす客人に、私は微笑みかけます。
「いらっしゃい。暗い夜道を歩くなら、道しるべが必要だね」
私は店内の棚から、数種類の灯りを取り出しました。
蛍の光を閉じ込めたような淡いもの、夜露を反射して遠くまで光を届けるランタン、そして、温かな琥珀色の灯りがこぼれる小さなランプ。
その中から、小さな山ネズミの手にも馴染む、優しくも力強い光を放つ一品を選び出しました。
「これなら、どんな深い夜でも、君を迷わせることはないよ」
ランプを差し出すと、山ネズミの瞳が安堵に輝きました。
大切そうにその灯りを抱え、何度も「ありがとう」と繰り返しながら森へ帰っていくその背中。
光が木々の間を縫って小さくなっていくのを見送っていると、私の胸の奥にも、ぽっと温かな明かりが灯ったような気がしました。
誰かの夜を照らす仕事。
これだから、山ねずみの灯り屋はやめられないのです。
Fin。

※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
