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(ショートショート)鍋の具は

 今日は一段と寒い日だ。

 木枯らしが吹きつける中、私は営業で外回りをしながら「今日は帰ったらおでんを仕込もう」と思いつく。

 小さいころの、温かい家族のだんらんの記憶が蘇る。

 「鍋の具は何?」と甘えた声で聞く幼少期の私。

 「卵、はんぺん、大根、こんにゃく、じゃがいも、さといも、しらたき、がんもどき、きんちゃく、いろいろ入ってるわよ。あなたが大好きなロールキャベツもたくさん入れたわよ」
 「ヤッター」

 父が後ろで静かに微笑んでいる。

 ここまでしか覚えていない、家族のだんらんの1ページ。

 その後、いろんなことが重なり両親は離婚。私は親戚内をたらいまわしにされた。

 コンビニに立ち寄り、昼食を買う。

 「今日はおでんを買おう」

 ロールキャベツが顔を出している。

 過去の母の声が聞こえた気がした。

 私を食べてと言ってるかのようにアピールしてくる。

 笑顔になりロールキャベツをたくさん容器に入れてレジに並ぶ。

 おでんとともに家族の輪が広がる。

 今はそれもかなわない。私も家族を持ちたいとは思わない。

 他人のせいにするのは簡単。

 私は、この傷を過去のせいにして終わらせない。

 もっと周りを見て行動してみようと、重たい曇り空を見た。

 おでんの湯気とともに心に暖かな何かを感じて、会社に急いだ。


Fin。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。