(ショートショート)ショートどうだ!?
キッチンの温度がいつもより少し高いのは、オーブンの熱のせいだけじゃない。
今日は、私と彼が歩み始めてから数え切れないほどの季節を越えた、大切な記念日だ。
私には、こっそり温めてきた趣味がある。
それは、真っ白な小麦粉と砂糖を魔法のように変える「お菓子作り」だ。
そして私の隣にいる彼は、自他共に認める大の甘党。
そんな彼に内緒で、今日は特別な作戦を決行することにした。
メニューは、王道にして至高の「いちごのショートケーキ」。
彼が仕事に出かけている間、私は静かな戦場(キッチン)で泡立て器を振った。
きめ細やかなスポンジを焼き上げ、純白の生クリームを丁寧に塗り重ねる。
真っ赤ないちごを冠のように並べれば、世界に一つだけのサプライズが完成した。
夕暮れ時、玄関のチャイムが鳴る。
「ただいま」
少し疲れた様子の彼がリビングの椅子に腰を下ろしたのを見計らい、私は冷蔵庫から主役を救い出した。
胸に込み上げる期待と、完璧な仕上がりへの自信。
私は彼に向かって、人生で一番のドヤ顔と共に、高らかにこう言い放った。
「ショートどうだ!?」
「えっ! まさか、作ってくれたの?」
一瞬呆然とした彼の顔が、次の瞬間には子供のような満面の笑みに変わる。
その表情を見た瞬間、私の心の中で、誰にも見えないド派手なガッツポーズが炸裂した。
一口食べるごとに「美味しい」と繰り返す彼を見ながら、私は思う。
この甘い幸せが、これからもずっと、私たちの日常に溶け込んでいきますように。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
