(ショートショート)おしこんだりもしたけれど、私は能天気です アマノ文筆クラブ
春の足音が、もうすぐそこまで聞こえてくる。
第一志望の大学に合格し、四月から新しい生活が始まる。
二月からは自宅学習期間に入り、卒業式の前日まで学校へ行く必要もなくなった。
私にとって、これほど心が晴れやかなことはない。
正直に言えば、これまでの学生生活は苦痛の連続だった。
体が弱く、要領も決して良くなかった私にとって、教室は楽しい思い出を育む場所ではなく、ただ耐え忍ぶ場所でしかなかったから。
けれど、これからは違う。
都会の大学へ進み、私は「医者」という夢の入り口に立つ。
その期待だけで、今は頭がいっぱいだ。
部屋の中は今、引っ越しの準備でひどい惨状になっている。
「いるもの」と「いらないもの」を機械的に仕分け、思い出もろとも段ボールへ放り込んでいく。
入り切らない荷物を力任せに詰め込みながら、私は鼻歌混じりにつぶやいた。
「おしこんだりもしたけれど、私は能天気です」
過去の惨めな自分も、弱かった体も、すべてこの段ボールに押し込んで、蓋をしてしまえばいい。
医学部合格という切符を手にした今の私に、もう怖いものなんて何一つないのだ。
新しい街、新しい学び、そして新しい私。
段ボールの山に囲まれながら、私はまだ見ぬキャンパスライフに思いを馳せ、春の光の中へ飛び出す準備を整えた。
Fin。
※この小説はフィクションです。
登場する学校や人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
