見出し画像

3つのお題とイラストから空想した世界を書きました。(ショートショート)銀世界の忘れ物と返しそびれた恩のゆくえ

 吹雪ふぶきの白に飲み込まれ、命を諦めかけたその時でした。

 「こちらへどうぞ」

 誘われるままに踏み込んだ屋敷には、息を呑むほど綺麗な女性が待っていました。

 そこは外の寒さが嘘のような、温かな別世界。

 彼女は豪華な料理で僕をもてなし、湯上がりには清潔なパジャマまで用意してくれました。

 深い眠りの中、隣の部屋から微かな音が聞こえていた気がします。

 彼女の正体は、かつての伝説で語られた鶴が返しそびれた恩を、雪女としての姿を借りてようやく果たそうとしていた、一羽の鳥だったのかもしれません。

 翌朝、目が覚めると彼女の姿はありませんでした。

 囲炉裏の火だけが静かに燃える居間で、僕は床に落ちている一枚の紙を見つけました。

 それは、昨夜までそこに彼女がいた証拠である雪女が落とした手紙でした。

 思わず手を伸ばそうとした、その時です。

 「これを見ちゃいかん!」

 背後から響いた野太い声に飛び上がりました。

 振り返ると、土間に鎮座するしゃべる石臼が僕を睨みつけていたのです。

 「しゃべる、石臼?」

 あまりの不気味さに僕は手紙を拾う間もなく、転がるように外へ飛び出しました。

 外は昨夜の嵐が嘘のような、どこまでも透き通った青空。

 僕は震える手でお礼のメモを書き、それを石臼をおもしにして置き、夢中で家路を急ぎました。

 ようやく辿り着いた自宅のリビング。僕は着替えもせず、そのままソファーの深みに沈み込みました。

 「なんだったんだ、昨夜のは?」

 あの雪女の寂しげな笑顔と、石臼の怒鳴り声。

 遠い目をしたまま天井を見上げる僕の心には、溶けきらない雪のような不思議な後味だけが残っていました。


Fin。


※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。