(ショートショート)世界の終わりを見た猫
私は、一匹の猫だ。
四つの足で地を踏みしめ、この世界を歩き始めてから、随分と長い時間が経った気がする。
振り返れば、私の歩みは止まることのない冒険の連続だった。
長く生きていれば、それ相応の景色を見てしまうものだ。
胸が躍るような高揚も、身を切るような痛みも、すべてはこの毛並みの間に刻み込まれている。
数えきれないほどの出会いがあり、それと同じ数だけの別れがあった。
その一つひとつが、今の私を形作っている。
ふと見上げる空は、いつの間にかひどく混濁し、地上には殺伐とした空気が満ちている。
どうやら、この世界が幕を下ろす刻がやってきたらしい。
「今日で、この旅も終わりか」
不思議と、恐怖はなかった。
ただ、願わくば。いつかどこかで、私の物語が語り継がれることを。
静寂に包まれていく大地の中で、私は「世界の終わりを見た猫」として、ひとつの伝説に昇華されることを夢想する。
後世の誰かが、語り部の灯火の下で私の名を出してくれたなら、それ以上の誉れはない。
私は、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
意識が遠のく境界線で、最期の言葉を風に乗せる。
「ありがとう。この世界。いいことばかりではなかったけれど……それでも、悪くない旅だったよ」
深い闇の底へ、私はどっと身を投げた。
その顔には、一筋の冒険を終えた者だけが浮かべられる、穏やかな微笑みが宿っていた。

Fin。
※この小説はフィクションです。
登場するモノや人物は存在しません。
↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。
