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(ショートショート)温もりのリレー

 日々の忙しさに心をすり減らしていた私は、ふと仰いだ冬の蒼い空に、こぼすように呟いた。

 「空に行きたい」

 気がつくと、私は夢の中にいた。

 そこは、境界線のない空の上。

 人間もいなければ、心を刺すような事件もない。

 ただ、穏やかな静寂せいじゃくだけがミルフィーユのように重なり、ゆっくりと時が過ぎていく場所だった。

 けれど、あまりにも清らかなその場所に、私は次第に物足りなさを感じ始めていた。

 「退屈だなぁ」
 
 その寝言に弾かれるようにして、目が覚めた。

 リビングへ行くと、カーテンの隙間から柔らかな陽光が差し込んでいた。

 私はその光を浴びながら、ふと考えた。

 「空にしまい忘れたもの」とは、一体なんだったのだろうか。

 それはきっと、損得勘定抜きで誰かを想う、人間が本来持っていた「本当の優しさ」なのだと思う。

 今の世の中は、あまりにも殺伐としている。

 薄汚れた現実に揉まれているうちに、私たちはいつしかその温もりを抹消し、大切な何かを失ってしまう。

 けれど、今日がその「魔法が遅れて届く日」なのだとしたら。

 凍りついた心が解け、失くしていた人間らしさがひょっこりと顔を出す。 

 そんなささやかな魔法を、私は信じてみたくなった。

 外へ出ると、冷たい風の中に、見知らぬ誰かが落とし物を拾い上げる光景が見えた。

 殺伐としたニュースの裏側で、確かに鼓動している温もり。

 「思っていたより、やさしい世界が、ここにあるのかもしれない」

 私はそう期待を込めて、今日という新しい一歩を踏み出した。


Fin。


↑この企画に参加しました。
ありがとうございました。