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虫、動物、川の話。マニアックなおじ様たちに学んだ、「無知」をキャリアに変える好奇心の魔法。

前回のあらすじ
バブルの喧騒とは無縁の地味な会社に入社した私。配属された「分析」の現場は、国立大卒のエリートばかりの超ハイレベルな実験室だった。知識も実務経験もない私は、生き残るために「出勤1時間前の掃除と器具の片付け」、そして「全員のマイカップでの茶汲み」を始める。

そして、、、
私が淹れたお茶を配り歩いていると、唯一の女性先輩
(5歳上の国立大理系卒)が、目を丸くして私を見ていた。

この時代、女性がお茶を汲むのは当たり前……のはずだった。
だが、この部門では違った。女性研究職が少ないため、先輩の彼女自身がお茶汲みをする習慣はなかったのだ。
(通例では、洗い場のおばちゃんにお願いしていたらしい)。

「私が女性だっていうことを、彼女が入社して初めて思い知った」
後から、女性先輩がそう話していたと聞いた。
私が自発的に始めたお茶汲みは、この男ばかりの研究部門に、ある種の
「異文化」を持ち込んだようだった。

そんな日々。私は毎日、日報を書いた。 最初の3か月は「基礎実験」のレポート。先輩たちは、理系の、検査好きのマニアックなおじ様たちばかりだ。営業トークなんて、これっぽっちもない。挨拶をしても集中しすぎて無視されることもあるし、常識が少し欠けているかもしれない人たち。

けれど、彼らの話は深かった。 当たり障りのない世間の流行の話なんて、一切出ない。 その代わり、虫のこと、動物のこと、川のこと、自然のこと……。それぞれが自分の専門分野について、聞いても聞いてもすべて答えてくれる。付け焼刃ではない、本当の知識。

一つのことを深く愛し、リスペクトし合う。
そこには、悪口や陰口は一切なかった。

短大卒で、化学の知識は高校レベルの私。「無知」な私を、彼らは馬鹿にしなかった。

「知りたかったら、この本読んでみたら」 「この本に載っているよ」

そうやって、学ぶための「道」を示してくれる。私は未知のことにどん欲に学んだ。わからなかったら自分で調べ、それでもわからなかったら先輩に聞いて教えてもらう。
恥ずかしながら、そのときにはじめて英英辞典という存在を知った。皆さんはわからないことや文献などにあたりまえのように使って調べている。

最初の1年。 私は担当の仕事を渡されることなく、先輩の仕事について回り、実際にされていることを見て、本を読んで、その仕事を理解した。外出先での分析用サンプリング業務について行ったり、何をしても怒られない、自由で、甘えさせてもらった1年だった。

この「恵まれた環境」で、私は少しずつ、けれど確実に自分の土台を築き、次のステップへ進む準備をしていた。
(つづく)

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