🐰実際にあったほっこり話|「意味がない」と言っていたお客様の、忘れられない一言
昔、マッサージのお店で働いていたときの話。
半年前にご主人を亡くされた、80代くらいのお客様がいらっしゃった。
初めてご来店されたとき、笑顔はなく、元気もないご様子だった。
娘さんがお店の近くに住んでいて、
「外に出る理由を作った方がいいから、一度行ってみたら。」
と勧められ、
お客様は1時間ほどかけてお店まで来てくださった。
「娘が外に出る理由を作った方がいいって言うから来ただけで、こんなところに来ても意味はないと思うの。
主人がいなくなってから、何もやる気が起きなくて。」
そうおっしゃっていた。
とりあえず娘さんが言うから、と一番短いコースをご購入くださり、通われることになった。
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施術の前は、待合室で少しお話をしてからお部屋へご案内する。
初めの頃、
「特に話すことはないの。」
とおっしゃっていた。
それからも、お話しされることはほとんどなかったので、
今日もきっとお話しされないだろうなと思い、
ご挨拶だけをして、すぐにお部屋へご案内していた。
施術中も、お客様から話しかけられることはほとんどなかった。
私は少しずつ圧を入れながら施術をしていく。
「圧はいかがですか?」
とお聞きするのだけど、
そのお客様は、他のお客様よりもずっと弱い圧なのに、
「痛い、痛い、痛い。」
「もっと弱くして。」
とおっしゃる。
私はさらに圧を弱める。
本当に最低限の圧だった。
正直、不安だった。
これだけの圧で効果は出るんだろうか。
会話も弾まない。
ご満足いただけている様子も分からない。
「痛い。」
とおっしゃるたびに、
私もどうしたらいいんだろうと思っていた。
そう思いながらも、
機嫌だけは損ねないように。
とにかくリラックスしていただけるように。
それだけを心がけていた。
施術が終わると、待合室でお茶を飲んでゆっくりしていただくこともできた。
でも、お客様はいつも次回の予約だけ取って、すぐに帰られた。
そんな日が何回か続いた。
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ある日。
施術中、あまりお話しをされないお客様がおっしゃった。
「なんか最近ね。
いつもと同じようにご飯は食べてるんだけど、お腹周りがすっきりしてきたように感じるの。
服が少し緩く感じるんだけど、ここに来てるおかげかしら。」
私の施術のおかげだったのかは分からない。
でも、
今までやってきたことは意味がなかったわけではないのかもしれない。
そう思えた。
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そこから、お客様との距離が少しずつ変わっていった。
今まで「痛い」とおっしゃっていた圧でも、
「まだ大丈夫。」
と言ってくださるようになった。
今までよりも少し圧をかけられるようになった。
手も以前より身体に入りやすくなったように感じた。
それからしばらくして。
お客様が、
「最近ね、外に出るのが楽しくなってきたの。」
そうおっしゃった。
初めてご来店されたときは、
「主人がいなくなってから、何もやる気が起きなくて。」
そうおっしゃっていたお客様が、
「外に出るのが楽しくなってきた。」
と話してくださった。
嫌われているのかもしれない。
そう思っていた時期もあった。
だから、その何気ない一言がとても嬉しかった。
その後は、
「私、宝塚が好きなんだけど、この前宝塚劇場まで行ってきたの。」
そんなお話も聞かせてくださるようになった。
後半になると、お話が止まらなくなって、
次のお客様がお待ちだったので、
「続きはまた次回聞かせてくださいね。」
と私がお声がけするくらいになっていた。
ある日、娘さんがお店まで来てくださった。
「母が元気になりました。
ありがとうございます。」
そう言ってくださった。
そのあと、娘さんも通ってくださるようになった。
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私の仕事は、身体をほぐすことだった。
でも、自分のやるべきことを一つずつ積み重ねていると、
気づけばお客様の毎日が少しずつ変わっていくことがある。
もちろん、それは私一人の力ではない。
娘さんがお母様を外へ連れ出そうと思ったこと。
そして、お客様ご自身が少しずつ前を向かれたこと。
その積み重ねがあってこその変化だったと思う。
自分の身体のことも考えて、この仕事は長く続けられないと判断し、別の仕事に進んだ。
でも、あの頃の経験は今でも私の中に残っている。
今も、まずは目の前の自分にできることをやる。
そうすると、ときどき思いがけない形で、誰かの人生にそっと触れられることがある。
だから今日も、自分にできることを大切に積み重ねていきたい。☘️
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