[詩] 初冬
あらゆる激しさの風に
身を投げ出す
花は
受難の 依りしろ
ひとに忘れられたとき
すこし距離をおいて ゆれる
家々の口伝えから抜け落ち
雨に朽ちていった花暦は
それでも 記録する
町に冬が来る前
宛先の滲んだ手紙となり
小鳥に伴われ 地図から姿を消した
花房のいろを
わたしは 見えない目で
燃やされた花木の香を集めようとするが
(しゅ、べに、ひ、もも、
だいだい、き、しろ…の陽炎は
まだ ゆれている)
いつの夜も ひといろ 探せずに
葉で指を切り
夢から覚めてしまう
寝台のそばの
枯れかけた野菊を
わたしの…、と呼ぶと
花はもうそこにはいなかった
わたしの、と告げたのも
もはやわたしではなく 薄い霧の声
窓の外では
刈り残された花首が耐えられる分だけ
風が冷たくなっていた
けれど野には まだ何も訪れてはいない
時間ばかりが過ぎてゆき
町でひとつの小川は
花盗人から逃れた花びらを
水底に閉じ
深い眠りに落ちていった


詩集『ひかりの途上で』(七月堂、2013年)より
※詩集の詳細は→こちら
