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『マスカレイドトリックパーティー』デザイナーズノート

トリックテイキングの魅力はビッドにあります

入札もしくは宣言と訳されることが多いですが、平たく言うと、ビッドとは手札を見たうえで「自分が何勝する予定なのか」を宣言することです。ビッドを行うには、自分の手札がどれくらい強いのか(あるいは弱いのか)を、正確に推し計る経験値が求められます。

ビッド後のプレイングは、言わばビッドが正しかったかどうかの検証です。他プレイヤーの手札の状況を見つつ、臨機応変に出すカードを変えるなどプレイの腕前も問われますが、面白さの核は、やはりビッドです。


トリックテイキングの進化の歴史

『カーネフェル』プレイの様子

トリックテイキングの歴史は『カーネフェル』(15世紀)に始まります。

トリックテイキングの系譜を見ると、それは一本の太い幹というわけではなく、様々に枝分かれし、多くの方向性を見出しながら発展してきたことが分かります。中でも歴史の転換点とも言えるのが『トリオンフォ』(15世紀)、『オンブル』(17世紀)、『ホイスト』(17世紀)、そして『コントラクトブリッジ』(20世紀)です。

『コントラクトブリッジ』のプレイヤー人口は、数百万人から数千万人と言われています。チェスや麻雀、ポーカーには劣りますが、それでも世界規模でプレイヤーが多いと言える、知的で中毒性の高いアナログゲームです。

トリックテイキングの頂点とも言われる『コントラクトブリッジ』ですが、このゲームには、ひとつの欠点があります。それは、習熟するのに長い時間を要することです。冒頭に「ビッドを行うには(中略)経験値が求められます」と書きましたが、『コントラクトブリッジ』の場合、『囲碁』などと同じく、年単位で学ばなければ、その真髄に辿り着くことができません。

ビッドのあるトリックテイキングは、おおきく2種類に大別されます。ひとつは、最後にビッドしたプレイヤー以外の全員がパスをして、デクレアラー(宣言者もしくは契約者とも)を定め、デクレアラー対防衛側という対立構造を持つタイプです。1人対2人や1人対3人で戦うものもありますし、デクレアラーが副官を指名し、2人対3人で戦うような形式のものもあります。日本で人気の高い『ナポレオン』(19世紀)もこの形式です。

もうひとつは、全プレイヤーが、それぞれに自分の勝利トリック数を宣言し、それを当てることを目指すタイプです。『オーヘル』(20世紀)やデヴィッド・パーレットの『ナインティナイン』(1967年)、『ウィザード』(1984年)、『スカルキング』(2013年)、『キャット・イン・ザ・ボックス』(2020年)などです。

先に紹介したタイプは、ビッドにリスクがあると言えます。つまり、デクレアラーとなって、自分のビッドが正しかったかどうかを検証するためには、他のプレイヤーに対してビッドで勝つ必要があります(より高い値をビッドしなければならない)。初心者が犯しがちなミスのひとつに、自分の手札を見誤るというものがあります。その結果、高すぎるビッドを行ってしまい、防衛側に易々と阻まれてしまい、大量失点を負うことになるのです。そうならないためには、ひたすら戦術を学び、プレイを繰り返して経験を積むしかありません。

一方、後者のタイプは、そこまで経験を積まずとも、面白いと感じることができるポイントに辿り着くことができます。何故ならビッドを競い、デクレアラーを決めるわけではないので、手札が弱ければ低めのビッドを行い、手札が強ければ高めのビッドを行えばいいのですから。手札運によらず、一定の得点が期待できるという点も、このタイプの良いところです。

まとめます。

  • トリックテイキングの魅力はビッドにあり、その最高峰は『コントラクトブリッジ』です。

  • しかし『コントラクトブリッジ』を楽しむには経験が必要です。

  • 『オーヘル』等の全員ビッド系であれば、経験を積まずともビッドの面白さを感じることができます。

ビッド系トリックテイキングの最先端

ビッドの面白さを、より直截的に訴求できないか?

そう考えた果てに辿り着いたのが強制ビッドです。

ビッド系トリックテイキングの面白さは、なんと言っても宣言通りにプレイできたときに最大化されます。この面白さを得るためには、正確なビッドが必要ですが、初心者の場合、まず手札の強さを推し計るのが難しいです。

ならば、ビッドを省略し、宣言通りにプレイできたときの快感を、手っ取り早く味わってもらいたいです。そのためにゲーム準備の段階で、目標カードを配ります。目標カードには勝つべきトリック数が記載されており、その回数分、トリックに勝つことができれば嬉しい、という算段です

しかし、これは機能しませんでした。

当たり前ですが、手札が強いときは勝ってしまい、弱いときは負けてしまうからです。

最高ランクの切り札を持っている場合は、1ディール中、どこかで必ず一度は勝ってしまうので、目標カードにゼロと記載されていた場合、始まる前から失敗が目に見えています。同様に、切り札はおろか絵札もない手札で、複数回の勝利は困難です。

ここから、あれやこれやした結果、辿り着いたのが『マスカレイドトリック』(2023年)です。

『マスカレイドトリック』(2023年)をテストプレイしている様子

プレイヤーは姫や王子、暗殺者や道化師となり、それぞれの役職ごとに指定されたビッドを達成するようにトリックテイキングをプレイし、同時に他人のビッドを推理する二段階構造にしました

連綿と続くトリックテイキングゲームの歴史の最先端に位置づけうる、会心のルールができたという手応えがありました。

しかし、ボードゲームづくりの経験の少なさが、ここで露呈しました。

印刷会社の1セット32枚というプランに縛られてしまったのです

総カード枚数32枚の中、6枚の役職カードは早々に決定しました。自由に使うことができるカード枚数は残り26枚。バランスを勘案した結果、基本スート3種ランク7までで21、これに切り札スートランク3までを加えて、数字カードは計24枚としました。

この24枚で1ディール10トリックを実現するため、前半6トリックと後半4トリックに分けることにしました。前半6トリックが終わったら、使ったカードをシャッフルして配り直すのです。

この仕組みは1セット32枚という制限の中では正解だったと今でも確信していますが、ビッド系トリックテイキングの最先端として世に問う形としては正しいとは自信を持って言えませんでした。

最高の形でのリデザイン

『マスカレイドトリックパーティー』(2026年)コンポーネントの一部

アートワークとグラフィックデザインは、別府さいさんにお願いしました。

印刷も国内ではなく、中国の印刷会社にお願いしました。オリジナルの木駒、オリジナルのタイル、オリジナルの大判カード、エンボス加工の効いた数字カードと、プロダクトとしてクォリティにこだわりました

数字カードは5スートで、最高ランクは10の計50枚。途中で配り直すことなく、1ディール10トリックを完遂できます。

後半の指名フェイズは、捧げ物フェイズに変更し、指さしによる指名ではなく、バラの木駒を渡すという方式に変えました

このバラの木駒を渡すというアイデアは、バーチャルパーティーさんに作っていただいた『VR版マスカレイドトリック』からの逆輸入です。

VRChatで遊ぶ『マスカレイドトリック』指名フェイズでは、アバターを操作してバラを渡す

また、細かい変更ですが、ゲーム終了時の処理も変更しました。『マスカレイドトリック』においては、行動順1の役職カードから順に、ひとりずつ役職カードを公開していく形式でしたが、『マスカレイドトリックパーティー』においては、全員同時に公開する形式に切り替えました。全員同時公開にすることで、その瞬間に感情曲線がもっとも盛り上がります。また、総プレイ時間の短縮にも寄与しています。

とにかく全てにおいて最高の形に仕上がったと考えています。

今度こそ、ビッド系トリックテイキングの最先端、強制ビッドと推理の二段階構造というメカニクスを、最高の形で世に問うことができそうです

デザインの意図、或いは攻略の糸口

ここから先は、半分デザイン、半分ディベロップメントの話で、ひとによっては蛇足です。

ここまでお読みいただいた方にはお気付きの通り、本作は、ビッドに重きを置いてデザインされています。各役職には明記されていないものの、勝つべきトリック数が設定されています。

たとえば王子と姫。王子の昼ミッションは最多勝利、姫の昼ミッションは最少勝利。額面通りに受け取れば、王子はとにかく勝つことだけ考え、姫はとにかく負けることだけ考え、最後にお互いにバラを贈り合うことができれば勝利です。

しかし、それを許さないのが暗殺者と国王です。暗殺者の夜ミッションの相手は姫、国王の夜ミッションの相手は王子です。つまり、王子と姫の動きが露骨だと、暗殺者もしくは国王も勝利条件を満たしてしまい、行動順の差によって王子と姫は勝つことができないのです。

では、どのようにすれば王子と姫は勝つことができるのか?

他プレイヤーの昼ミッション達成を阻止すれば良いのです

たとえ自身の正体がバレてしまい、他プレイヤーが夜ミッションを達成しようとも、昼ミッションの達成を阻止すれば、昼夜両方のミッションを達成した王子や姫は勝利することができるのです。

たとえば暗殺者は、最多トリック数と最少トリック数を避けたいため、制御しつつの勝利を目指します。姫は同値でも最少勝利が認められるので、その時点で自分を除き、最少の勝利回数のプレイヤーと同じ分、トリックに勝つことで暗殺者の潜伏先を減らすことができます。

たとえば国王は、偶数回数のトリック数を狙っているため、2勝したところでブレーキを掛けます。2勝するまでは勝とうとしていたのに、2勝した途端に負け始めた国王と思しきプレイヤーがいたら、なんとか勝たせましょう。一度、強いカードを捨てたら、再び勝つのは難しいのがトリックテイキングです。攻め時を間違えなければ、国王に3勝させることは不可能ではありません。

重要なのは全体のトリック数です。本作は何人で遊んでも1ディールのトリック数は10回と決まっています。つまり10トリックを3~5人のプレイヤーで奪い合う、もしくは分かち合うのです。王子だからと言って全勝を目指さなければならないわけではありません。3人であれば4勝、5人であれば3勝もすれば往々にして充分です。

ミッションは基本的に行動順が若ければ若いほど達成難度が上がるようデザインされています。上述の通り、王子と姫は、比較的、透けやすいので暗殺者と国王は夜ミッションを達成しやすいです。しかし、王子と姫が、暗殺者と国王を警戒すると、その昼ミッションが達成しにくくなります。

道化師と騎士は、昼ミッションが達成しやすいです。道化師は他人を勝たせて0勝を狙うか、あるいは無双して全勝を狙えば昼ミッション達成は容易ですし、騎士は2~3勝を狙って動けば、結果的に誰かと同数勝利が可能です。しかし、上述の通り、王子と姫が警戒した場合、暗殺者と国王が昼ミッションを達成しにくくなった結果、騎士目線では暗殺者と姫が見分けにくくなり、道化師目線では騎士と国王が見分けにくくなります。

また、道化師に関しては、0勝を狙った場合は、姫と同値になってしまう可能性があるので、王子より強い手札を持っている確信があれば全勝も狙うことができます。しかし、そうした結果、国王が0~1勝に留まるケースが増え、結果的に昼ミッションは達成しても、夜ミッションの達成が難しくなります。

基本役職の想定ビッド数は下記の通りです。

  • 3人プレイ時

    • 騎士:2~3

    • 暗殺者:2~3

    • 国王:2 or 4

    • 王子:4

    • 姫:1~2

  • 4人プレイ時

    • 道化師:0~4

    • 騎士:2

    • 暗殺者:2~3

    • 国王:2

    • 王子:3~4

    • 姫:1

  • 5人プレイ時

    • 道化師:0~1

    • 騎士:2~3

    • 暗殺者:1~2

    • 国王:2

    • 王子:3~4

    • 姫:0~1

『マスカレイドトリックパーティー』には上級役職を同梱しており、基本役職と一部入れ替えたり、全交換することで、異なるプレイ感を味わうことが可能です。

断言してしまいますが、トリックテイキングに慣れている方は、上級役職の方が楽しいです

と言うのも、基本役職は、全プレイヤーが同時に昼夜両方のミッションを達成できるようにミッションの難易度を下げていますが、上級役職は、最初から誰かひとりは達成が極めて難しい難易度になっているからです

もちろん与えられた役職と手札によっては、極めて難しいどころか不可能……というケースもありえますが、その不可能を、プレイの腕前でひっくり返すことができたときは、快感もひとしおです

具体例を見ていきましょう。

  • 3人プレイ推奨編成「隣国からの使者」

    • 将軍:2 or 4

    • 密偵:1 or 2 or 4

    • 国王:2 or 4

    • 勇者:4

    • 賢者:1

密偵と賢者が抜けて、将軍、国王、勇者が場に出たときは、それぞれ4勝したいひと、2勝したいひと、4勝したいひとと決まっており、10トリックをきれいに分かち合うようになっていますが、その数字ぴったり勝つことは難しいものです。多少の上下が許される基本役職と異なり、上級役職は1や4ですとか、ピタリと狙う必要があります

もし、抜けたのが将軍と勇者なら、きっと困惑することでしょう。積極的に勝ちたいプレイヤーがいないので、低いランクの数字カードが出揃い、お互いに顔を見合わせることになるでしょう。

けれど、こうした混迷の中でも、戦い抜くのが歴戦のトリックテイキングプレイヤーです。そういった方には、ぜひ上級役職での、歯ごたえあるプレイングを楽しんでいただきたいです。

想定ビッド数は、プレイ人数と編成、そして抜ける役職によって異なります。本作は3人からプレイいただけますが、やはり真価は4人ないし5人で遊んだときに発揮されます。ぜひ、繰り返し遊んでいただければ幸いです。

1人から遊べるトリックテイキング

本作は、箱には3~5人用と記載していますが、1人用ルールと2人用ルールを同梱しています

このふたつは出色の出来栄えと自負しています。

何しろ2人用はまだしも、1人用トリックテイキングなんて、世の中に数えるほどしかありません。強制ビッドとビッド推理の二段階構造に加えて、この1人用ルールもボードゲーム史におけるひとつの発明だと考えていますので、ぜひ味わっていただきたいです。

終わりに

ずいぶんと長々と書いてしまいましたが、最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。

それでは、また次のゲームでお会いしましょう。

秋山真琴でした。

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