[短編]Black Bird
ー ……がいなくなった!?
ー 朝一で台北に発つ予定なんです、なのに…そっちは?
ー こっちもです。楽屋はもぬけの殻です
ー 駐車場に、……の車もありません
本当は、私たちに行く場所なんてない。
朧げに、儚げに浮かぶ今にも消え入りそうな不安定な月の光が
ハンドルを握る横顔を静かに照らしていた。
「台北のコンサート、すっぽかすつもり?」
わたしのその問いに、彼は答えない。
以前より頬骨が目立つ。
このまま消えてしまいそうにも見え、胸がぎゅっと音をたてる。
何を想っているのだろう?
一度見失うと探し当てる事ができない。
さっきまで、朧げながらも見えていたはずの、月と同じように。
車がやっとすれ違うくらいの、細い細い国道をどんどん奥へと進んでいく。
道を挟むように生い茂った竹薮から、ざわざわと音が聞こえてきそうだ。
何処に向かっているのだろうか。
どうせ、追っ手はすぐに来るのだろう。
「雨が」
左隣から、掠れ声がした。
局を出てから初めて聞く声。
ー その声が好き。
ー ちょっぴり辿々しい日本語も。
街灯もない。
他に車の通る気配もない。
そこを躊躇なく、どんどん奥へと車を走らせる。
まるで真っ暗な穴に沈んでいくようだ。
ー 悪い事してるね、私たち。
ヘッドライトの明かりに照らされる、少し強くなった雨を見つめながら、
心にも黒い穴が広がっていく。
もっともっと。
もっと激しく降ればいい。
誰も私たちを探せないように。
私たちが、闇にまぎれて、まんまと逃げ果せるように。
車のブレーキに、身体がすこしだけ浮いた。
急なパッシングに目が眩む。
「行き止まりだ」
無謀な逃避行への道が、ここでぷっつりと途絶えた。
ああ。
夜は私たちを逃がしてくれそうにない。
カチ、カチ、カチ、カチ
ハザードランプの、狂う事のない規則的な音が ー。
点滅する明かりが、静寂の中で無機質にリズムを刻む。
ねえ、この世に二人だけしかいないみたいだね。
そんな事を口にしてみた。
どうしようもない。
幼い私たちは、こうして見つめ合うことしか出来ずにいる。
でもそうしていると、胸が一杯になり、なんだか甘い気持ちになっていく。
私の鼓動は、簡単にその機械音の速度を追い越した。
彼のだってそうだといい…。
そして、熱を帯びた視線に答えるように、目の前で、ゆっくりと両腕が開かれる。
夜空に羽ばたこうとする黒い鳥を想う。
果てしなく広がる、草原を想う。
満天の星が煌めく宇宙を想う。
今この瞬間の、永遠を願う。
そこに飛び込めば、それは確信に変わる。
想いは、願いはつのり、飽和量を簡単に越えて、ぽろぽろと流れ落ちていった。
ー 見ないでよ。
笑っていたい、本当は。
何か言いたげに少しだけ動く、下唇にそっと噛み付いた。
それに応えるように、同じようにされて、交互に繰り返す。
ふたりで、息を、弾ませて。
泣きながら笑うんだ。
永遠にこうしていたい。
私、離れられないよ。
先に唇を離したのは彼だった。
溶けるほどに涙を流した私の目を心配そうに覗き込む。
ー 自分だって泣いてるくせに。
私の涙を親指でそっと拭いながら、呻く様に彼は呟く。
……、約束はしない。
でも、
いつか、きっと、会えるさ、と。
[おわり]
若い男女の禁じられた恋です(笑)
読んでいただいてありがとうございました。
noteのアカウント作って、TALESの存在を知って、1ヶ月…。
転生しない物語を書いてる私でも馴染めそうな空間、やっと見つけました、キャハハ
素敵なお話、好みのお話を書いてる作家さんがたくさんいらっしゃるのを知って、めっちゃワクワクしています。
もうすぐ夏休みに入りますので、休み中じっくり回ってみたいなーと思っています。突然コメントとかするかもしれないのですが、いいですか?WWW
この物語とはあまり関係tないのですが💦
本日21時、talesで1ヶ月弱かけてアップしていた長編(全58話)が完結します。よろしければ、ちらっと覗いていただけると嬉しいです。
ではまた。
