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[短編]くろいねこ

ー コツ、コツ、コツ、コツ
ー ガチャガチャガチャガチャ
ー キィ……バタン!

耳が、ぴくんと動く。
その音のするほうに向かって。

帰ってきたわ!

「ミャア」

おそい!おそい!おそいじゃないーーーー!

ずっとずうっと、待ってたのよ!
あたし、退屈しちゃってるんだ!
あのさ、遊んであげてもイイよ!

「すまなかったな」

投げかけてくるのはいつも、見ちゃっていいのかしら、ってくらいにうっとりした視線。
そしてあたしの名を呼ぶ。

「ルナ」

あたしは少し気を良くして、玄関先でコートをはたいてるその足下に、絡みつく様につきまとう。


「コラ、あぶないぞ。踏んじゃうだろ」

だけどその時、ぷうん、とあのヘンな匂いが漂ってきたの。
それは偽物のお花のような、ほんのり甘いけど、やけに鼻につく匂い。
あたしのキライな匂い。

だってこの匂いはあたしをとっても憂鬱にさせる事がある。

だからそんなときは、思いっきり首を持ち上げて、頭のてっぺんから足の先まで、くまなく観察してみるの。

間違い探しよ。
出て行った時と、どこか違うところはない?


無造作なミディアムヘア。
目尻のしわが目立つけど、とっても切れ長な目。
まっすぐに通った鼻筋に、くっきりとした人中。
程よい厚さの、形いい口元…。

「ミャア」

あーーー! 見っけ!

下唇に、ローズピンクの口紅が少し残ってる!
それに、胸のボタンが3つも開いてるし!

こんな日は決まって。

一緒に遊んでも、何処か上の空。
時折空をみつめて、にやにや笑ったり、
そうかと思うと、あたしが吹き飛ぶんじゃないかってくらいのため息をついたり、大きな大きな欠伸をしたり、挙げ句の果てには、こっくりこっくり居眠りを始めたり…。

とにかく心、ここに有らず。
ぜんっぜん、面白くないの。

でもそれだけならまだまし。

スマートフォンがブーブー鳴り出した時なんて、本当に最悪!
あたしをガン無視して、少し鼻にかかった甘い声で、電話の向こうの知らない誰かにしつこいくらいに囁き続けるの。

畜生、許せない!
その日じゅう、あたしをほったらかしにしてたくせに!

ついこないだだって、あんまり頭にきたもんだから
あたしがおしっこをする場所に敷き詰めてある灰色の砂を、床にぶちまけてやったわ。

それともうひとつ。

こういう日のこの人は、なんだか、目眩がしちゃうくらいに「美味しそう」に見えるんだ。
とってもとってもお腹がすくの。

そんな事考えるなんて、すごくヘンだと思わない?

あたしの中の野生が、ある時突然、目覚めちゃったらどうしよう。
まるで目の前にぽとり、と鳥のヒナが落っこちてきた時のように。
我をわすれて追い回した挙げ句、ガブリ、といっちゃうんじゃないかしら。

それが怖いの。恐怖なの。
ーーー不安なの。

あたしの成長のスピードは、恐ろしい程早い。
あたしがここにきたとき、あたしはまだコーヒーカップにすっぽり入っちゃう程に小さかった。
だけど、それからたった一年で、あたしの体は10倍くらいに成長しちゃった!
この人は少しも大きくならないってのに……ああ、髪や髭は伸びるみたいだけどさ。

この調子で行ったら、あっという間に目の前の人を軽く追い越して
四つん這いでも簡単に見下ろせるくらいに大きく大きくなっちゃって
大きな口で、本当にペロリ、といっちまうかもしれないでしょう?

笑い事じゃないわ。
そういうの、テレビで観た事があるんだもの!
真っ暗な部屋で、ぴちゃぴちゃと奇妙な音をたて、真っ赤な血をだらっだらと流しながら、むしゃむしゃと人間に喰らいつく、猫のお化けのお話を。

「ミャア」

だから、ねえ。
その手であたしに触ってよ。
気持ちイイこと、たくさんしてよ。
そうすればこの恐怖とも、一瞬はオサラバできる。

うっとりさせてよ。
あたしが飽きるまで。

お願いだから、ねえ。



[ーーーくろいねこ/おわり]

読んでいただいてありがとうございました!

あおの林檎と申します。
note、はじめたばかりです。
下手くそですが、お話いっぱいありますので、随時アップしていきますね。


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