『ヤンキー多発地帯・足立区のたたかう書店員』第12棚
第12棚「トラブルメーカーは私じゃない!」
昔から、おかしな人間に会いやすい。それは見ず知らずの人間だ。
細い路地を歩いていて、向こうから下半身を露出しながら歩いてくる変質者とか、電車の中で大声を上げる不審者とか……。他に大勢いるのに、まるで磁石でもあるかのように寄ってくるのだ。
友人は「あんたが呼んでるんじゃない?」と笑うがもちろん、そんなつもりは毛頭ない。無意識にそんなオーラが出ているのか。出ているのなら危険だ。
おかしな人間だけでなく、嫌なことを言われやすいというのはどうしたものか。
元々、人見知りで引っ込み思案、気弱な女の子だったのが頑張って他人とコミュニケーションを取り、友人をつくり、自営業者として仕事をしているだけなのに、そんなに生意気に見られるものなのか。
「コイツは勝ち気そうだから何を言っても傷つくまい」
「出る杭は打ってやれ!」
と、思われているのか。
とんだ勘違いである。
しかし、もっと嫌なのが、このおかしな目に遭いやすい「体質」を作り話だと思われることなのだ。
「大げさ!」
「盛ってるでしょ!」
「そんなドラマみたいなことあるわけないよ」
「作ってるでしょ?」
こんなこと、わざわざ作り話してどうするのだ。
こんな目にまったく遭わない人生もあるらしい。そちらの方が不思議だ。
まだ、20歳代の頃は信じてもらえた。そういう空気感が世の中には漂っていたからだ。おかしな行動をする人も頻繁に出没していたし。
——昭和も遠くなりにけり。
俳人の中村草田男も昭和初期頃に生きづらくなって「降る雪や明治も遠くなりにけり」と詠んだのかなと思ってみたり。
歴史は繰り返す。
こんな私が接客業をするのは偏に「本やマンガのそばに居たい」からだけだ。
自分では、ちょっとお節介・ハキハキと声は大きい・敵意は一切なく親切という認識なのだが伝わっていないような気がする。
そして、今日もブックスあだち無双店で「ちょっとしたトラブル」が巻き起こる。
ある日のこと。レジに行列ができる帰宅ラッシュの時間帯だった。クーポン券(無料配布の割引券)が使える給料日後の月末はいつも混み合う。
我々、書店員は次から次へとやって来るお客様を「テンポ良く」さばいていく。
「いらっしゃいませ」
「こちら、カバーはお付けしますか?」
「袋にお入れしますか?」
「クーポン券はお持ちですか?」
「ポイントカードはお持ちですか?」
「ポイントカード、お作りいかがですか?」
「○○円お預かりします」
「○○円のお返しです」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」
お客様一人につき、このセリフをすべて言う。
二人一組の場合は、このセリフを自然に二人で分けて連携する。
とにかく、テンポ良く。これを繰り返しているうちに、身体の中にリズムが生まれる。「ポン・ポン・ポン・ポン」と。
その時、私はレジ打ちを担当していた。
カバーかけや袋入れの接客担当はツン先輩。
とある男性客(30歳代後半)が目の前に来た。行列にずっと並んでいて、待ちすぎてイライラが募っていたのだろう。非常に機嫌の悪い表情になっていた。こちらをにらんでいる。
ここから接客のリズムを番号入れして解説しよう。
①「いらっしゃいませ」
②「こちら、カバーおかけしますか?」
男性客は無言でこちらをにらむだけ。
私は、書籍のバーコードを③ピッと読み取る。
④「○○円になります。ポイントカードはお持ちですか?」
その途端、男性客はレジカウンターにポイントカードを⑤バンッと叩きつけた!
私はカチンときて、そのポイントカードを手にし、バーコードを⑥ピッと読み取る。
そして、⑦「バンッ!」とたたき返した!
音とリズム的には⑤〜⑥〜⑦、「バンッ」「ピッ」「バンッ」だ。この間、3秒。
男性客は驚くと同時に鬼の形相である。目を見開いて怒りに打ち震えている。
だが、ツン先輩も私も何事もなかったかのように次のお客様対応に向かっていた。
ところがその数分後にブックスあだち無双店の電話が鳴ったのである。
「魚住って店員に失礼なことをされた。店の教育はどうなっているんだ!」
名札から名前が知れて、名指しで抗議電話をされてしまった。
電話に出たオタク店長からこってり絞られましたとさ。
しかし、先にケンカを売ったのはあっちだ。
いや、もうアレは「ボケ」たのだと解釈している。
一つ言い忘れていた私の特徴の一つ……。長くお笑い芸人の取材・インタビューをしてきた(1996年〜2006年頃まで)経験から「ボケたらツッコむ」ことが身体に染みついている。それから「間(ま)」とかリズムが大切。
「ボケたらツッコむ!」が信条だ。
あのまま放っておいたら双方とも気持ちの行き場がないじゃないか。これは親切心からである。
だから、私はトラブルメーカーじゃない!
……と思いたい。
(第12棚「トラブルメーカーは私じゃない!」了)
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星の数ほどいるクリエイターの中から私を見つけて、読んでくれて、ありがとう。一人暮らしで、還暦を超えたクリエイター。まだ何も成し遂げていません。でも、将来の目標ができました。そのためにこれから芸大生(通信教育部)になります。「才能」なんてこれから創り出してみます(笑)。