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渋谷の私的な(今/昔)#UPSIDERアドベントカレンダー2025

これは、UPSIDER Corp アドベントカレンダー 2025の12月24日公開の記事です。

UPSIDERのアドベントカレンダー2025 では、Biz・Tech・Corporate の3つに分かれて、それぞれのチームメンバーが日替わりでさまざまな内容をお届けします。
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渋谷オフィスへ向かう朝は、銀座線で来て、ヒカリエ方面改札を出る。動線が決まっていると、身体は勝手に進む。自分の意志が働く余地が減る分、記憶のほうが勝手に動き出す。改札の向こうの人波はいつも似ていて、似ているからこそ、その日その日の些細な違いが、妙にくっきり見えてしまう。

渋谷に縁がない、と長い間思っていた。都会の真ん中で器用に呼吸できるタイプではないし、渋谷はいつも誰かの速度でできている街だと思っていたからだ。けれど、実際にはそう言い切れるほど無縁でもない。渋谷近辺で通学していた時期があり、短いが勤務していた時期もある。歩き回った時間の分だけ、地図には載らない自分なりの目印が、いくつか増えた。縁がないのではなく、縁を薄く言い換えることで自分の居心地を守ってきただけなのだろう。

ヒカリエの中を歩く。ガラス越しに見える商品や看板は、視界の端で小さく光り、足取りを軽くするように作られている。きれいな内装、整った導線、角のない明るさ。渋谷の“いま”は、昔よりもずっと親切だ。迷子になりにくいように、無駄に疲れないように、設計されている。けれど、その親切さの中を歩いていると、ときどき妙に心細くなる。親切な場所は、居場所を用意してくれる代わりに、こちらが勝手に馴染んだ気分になるのを許さない。

そして、ヒカリエの中には、かつて銀行員をしていた時期に担当していた店舗がある。名前を見れば一瞬で分かるし、見なくても、あの場所に近づくと身体が先に気づく。ほんの短い期間だったとしても、関わったものは、街の中で“点”のまま残る。点が残っているから、こちらの過去も簡単に呼び戻される。

改札を抜けて外に出ると、渋谷は相変わらず情報量が多い。人の視線の高さに広告があり、音があり、通行の規則があり、そして規則を平気で横切る例外がある。街は常に更新されていて、昨日までの道が今日には工事中になっている。変化に慣れた人が勝ち、慣れない人は遅れる。遅れると、ただ立っているだけでも少し消耗する。

「ビットバレー」と呼ばれていた盛り上がっていた時期の、近くの銀行支店で勤務していた時期の渋谷を思い出すとき、真っ先に浮かぶのは熱気というより、雑さだ。雑であることが許されていた。建物の古さも、通路の狭さも、誰かが急いでいる感じも、全部まとめて街の勢いだった。いまの渋谷は、ずっと滑らかだ。滑らかであるぶん、熱の輪郭が見えにくい。熱が消えたのではなく、熱の出し方が変わったのだろう。派手に湧き上がるのではなく、きちんと流通している。熱が、仕組みに収まってしまった感じがある。

変わったのは街だけではない。こちらも変わった。昔は、渋谷の空気に煽られて、何か新しいことをしなければいけない気がしていた。新しいものを好きになれば、自分も少し新しくなれるような気がしていた。けれど、新しいというだけでは前に進めないことも、いつの間にか知った。前に進むには、地味な手順がいる。説明できる形に整えること。誰かの理解に届く順番で話すこと。勢いの中で見落とされがちな小さな確かさを、いくつも積むこと。

渋谷の“いま”は、その積み方が上手い街になった気がする。雑な熱気の代わりに、丁寧な更新がある。迂回路は案内され、危ない場所は塞がれ、歩く人の流れは誘導される。だから、昔よりも安心して歩ける。だが、安心して歩けるようになったぶん、街の側から「勝手に覚悟を決めさせられる」感じは薄れた。昔は、どこかで自分も試されている気がしていた。いまは、試される前に整備されてしまう。

それでも、渋谷には、変わらないものがある。駅という装置が持つ、切り替えの強さだ。改札は境界で、境界を跨ぐと人は別の顔になる。仕事へ向かう顔、帰る顔、遊ぶ顔。渋谷はその切り替えが極端で、極端だからこそ、自分の中の別々の時代も一緒に呼び出してしまう。昔の自分が、いまの自分の隣に立って、同じ景色を見ているような気がすることがある。

ときどき、街のどこかで、昔の気配がふっと混ざる。信号待ちのときに聞こえる会話の断片だったり、工事の囲いの隙間から見える古い壁だったりする。そういうものに触れると、懐かしさというより、距離感が戻ってくる。

渋谷は自分の街ではない、という距離感。けれど、距離があるからこそ、ここに来るたびに確認できるものもある。自分がどんな速度で歩けるのか。どんな雑踏に疲れるのか。どんな景色に、ふと足を止めたくなるのか。

渋谷オフィスへ向かう道は、今日も同じ入口から始まる。銀座線、ヒカリエ方面改札。街は変わり続け、こちらも変わっていく。でも、同じ場所を繰り返し通ることでしか拾えないものがある。変化の中にある微かな連続性。連続性の中に混ざる、ちいさな違和感。渋谷はそれを、嫌というほど見せてくる。だから、縁がないと言い切るには、もう遅いのだと思う。

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