【すっぱいチェリーたち🍒】宇利盛男 スピードに乗って🏍️
「えっ、トシって、誰?」
突然の転校生の発言で、
教室がざわついていた。
転校生の圭子が
オレの横を通り過ぎて、
波都子の席の隣に向かった。
ほんのかすかにガソリンのような
オイルのような匂いがしたと思ったら
すぐにそれを打ち消すかのように
上品で甘くセクシーな香りが漂った。
気のせいか以前にも嗅いだような香りだった。
「ん、あれっ、
バ、バイク?
バイクの匂い!。
それにその後にくる
この上品で甘くセクシーな香り。
そうだ。
絶対そうだ。
バイクに跨っている時に
出来るだけ吸い込もうとした
あの素敵な香りと同じだ!」
さっきまで
通学中に道端で倒れていた
おばあさんのために
救急車を呼んでいたため、
学校に遅刻するかどうかの瀬戸際だった。
無遅刻無欠勤のオレの取り柄も
いよいよなくなるのかと思った時、
ボボボボボボボボボー
と突然けたたましいエンジン音とともに
大きなバイクがオレを追い抜いて停まった。
ライダーは黒のレザージャケットを身にまとい、
フルフェイスのヘルメットをかぶったまま
しゃべりかけてきた。
女性の声だった。
「すみません、田梨木高校ってどっちですか?」
「オレ、田梨木高校の生徒っす。
そこの交差点を左折したらあとは1本道です」
「ありがとう、… よかったら乗ってく?」
「遅刻しそうなんで、助かります」
「オケ―」
「これナナハンすっか?」
「1200よ、ヤマハのV-MAXていうの」
バイクに乗せてもらうのは初めてだった。
「落ちないように、しっかり掴まっていてよ」
彼女の腰に手をまわした途端
心臓が爆発しそうなくらいドキドキした。
ボボボボボボボボボー
と、けたたましいエンジン音とともに
バイクが走り出した。
「こわいこわいこわいこわいっ!」
最初は思わず声が出ていたが、
今までに感じたことのない
スピード感と爽快感に、
確かな興奮を覚えた。
バイクから落ちることはなかったものの、
どうやらオレの心が
勢いよく恋に落ちるような気がした。
そんなことを考えていたら、
あっという間に校門近くに着いた。
余裕で間に合った。
他の生徒たちがみんなこっちをジロジロと
眺めながら校門をくぐっていく。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
彼女はそういうと
学校の塀をなめるように低速で走り出した。
そしてまたこの教室で、
すぐにあの上品で甘くセクシーな香りと
再会することになったのだった。
「えっ、
まさかさっきのバイクの女性って、
転校生の圭子だったの?」
叫びそうになった言葉を
なんとか飲み込んだオレ。
こんなドラマのような展開って
本当にあるのだろうか?
偶然道端で出会い、
偶然にも行き先が同じで、
バイクに2人跨って進んでいく。
まるで同じ人生を歩んでいくことを
予感させる出来事。
しかもオレは
彼女の腰に手を回し、
ギュッと抱きしめた。
そう、
イケナイ関係へと進んでしまった。
そしてその時にかいだ
脳に焼きつくような
あの上品で甘くセクシーな香り。
思い出すだけで胸がキュンとなった。
男として、
責任を取らなければならない。
もうトシという存在が誰かなんて、
オレにとっては関係ない。
青信号に変わった。
いよいよ、
スピードに乗って、
オレの恋心も加速していく。
「これはもう、
運命として、
受け入れなければならないのだ」。
明らかに、
オレの心の中のエンジン音が、
ボボボボボボボボボーという
けたたましい音を鳴らした。
ウリモのV-MAXだ。
オレの心はもうエンジン全開。
気づけばもう、
最終コーナーに差し掛かっていた。
ただ、
残念ながら今は授業中。
休み時間のチャイムが鳴るまで、
もうひと妄想しようと
まだかすかに残っている
上品で甘くセクシーな香りを楽しみながら、
ゆっくりと
瞳を閉じたのだった。
<圭子のモデルはこの方です!>
ヒントを得た物語はこちら↓
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